- パート3
- 自然のチカラ
森林で健康になろう!
森林で健康になろう!
現代は、ストレスに悩む人がますます増えており、「ストレスケア」の重要性が一層高まっているといえます。森には癒し効果があります。森に入るとなぜ心が落ち着いたり、元気が出てくるのでしょうか。そして、森での過ごし方にはどのような方法があるのでしょうか。森林の国といわれながら、実際は日本人は森林を活用する術を知らない人が少なくないのではないでしょうか。さまざまなストレス対策がある中で、森林を活用した“森林セルフケア”の方法をご紹介したいと思います。
赤坂溜池クリニック院長 心療内科医
赤坂溜池クリニック院長。心療内科医。ストレスケアの方法として、現代医学だけでなく、森林療法など植物を活用した代替療法を含めた全体的(ホリスティック)な医療を行なっている。NPO法人日本森林療法協会理事。著書:「森林療法ハンドブック」東京堂出版、「こころとからだの自然療法」エイ出版など
なぜ森林は快適なのか
近年、なぜ森林は健康によいのかという研究が大学や研究所で進み、その結果、「森林療法」とか「森林医学」という言葉が登場する時代になりました。例えば、「40分の森林浴で唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)が減少した」(森林総合研究所)、「森林浴時に脳の前頭野の活動が沈静化し、交感神経の活動が抑制され、血圧も下がった」(森林セラピー研究会)、「免疫力に関わるナチュラルキラー細胞が活性化した」(林野庁)などが報告されています。また、森に行くと安らぐという言い方がされますが、例えばマツ類に含まれるα-ピネンという成分は、副交感神経が促進されリラックス状態に、つまり緊張時の精神発汗が抑制されたり、指先の血流が増えたり、脈拍数が低下することが分かっています。他にも、鎮静作用や、逆に森へ行くとワクワクするという興奮・眠気醒ましの効果、落ち着き・α波の増加作用などがあると言われています。
そんな森林のアメニティ機能を五感で分類してみましょう。
- 視覚の快適性
美しい風景や景観、その構成要素となる樹木、草花、野鳥、蝶などを見て気持ち良くなるという機能です。但し、これには個人差があり、例えば森林で事件などが起きたことを見聞きした人にとっては心地よくない場合もあります。 - 聴覚の快適性
森の静けさ、風の音、葉が揺れる音、小川のせせらぎ、小鳥のさえずり、虫の声などです。この中で人気のTOP2は小川のせせらぎと小鳥のさえずりで、この二つだけで作られたCDもあるほど効果の高い機能です。 - 嗅覚の快適性
フィトンチッドの香り、花・土の香りなどです。森に入ると、やはり街とは匂いが違うと感じる方は多いのではないでしょうか。但し、匂いは揮発性があり、深い森に行かないと充満しないため、半径30〜50mの広さの森林にいることが必要だと言われています。 - 触覚の快適性
歩くと足から癒されるという感覚、つまり落ち葉や腐葉土を踏みしめることで感じる柔らかい感触を好まれる方がいらっしゃいます。他に、樹木の肌触りや風の心地よさを快適と感じる方も多いのではないでしょうか。 - 味覚の快適性
春なら山菜、秋なら木の実やキノコなどです。食べることは大抵の方がお好きですよね。
森林療法で健康を回復・維持・増進
森林療法とは、森林の地形や自然を利用した医療、リハビリテーション、カウンセリングを指し、森林浴、森林レクリエーションを通じた健康回復・健康維持・健康増進のための活動です。私達は、実際に自律神経の機能改善・バランス改善を測定する機械を持って行き、その効果を実証する形で森林療法を行っています。しかし、療法という所までいかなくても、森林活動の効果がある領域は他にも色々あります。例えば、森の幼稚園のような所に通うお子さんは発達が非常に良いとか、風邪をひかなくなると言われていますし、老人医療に関しては、認知症っぽくなってしまった方を森へ連れて行くと、嗅覚が記憶に影響することがあるために、その人が子供時代に森で遊んでいたりした場合、過去を思い出しやすくなりシャキッとしてくることが分かっています。障害者療育の面からは、例えば自閉症の方は協調性がなかったりしますが、森に行って丸太運びを一緒にやろうと誘うと出来てしまったりすることが起こります。その他に心理的保養効果もありますし、ある学校で職員会議を森でやったら早く終わったということも報告されています。
ここで、そんな森林療法のために東京から比較的行きやすいお薦めコースをご紹介しましょう。
- 森林保養地コース
(各地のレンジャー、指導員のガイドウォーク付き)
清里、草津、玉原高原ブナ林、森林セラビー基地・飯山 - 日帰りできる近郊および里山
青梅丘陵、横浜自然観察の森、西湖周辺の森(青木ヶ原樹海)、都民の森、国営武蔵丘陵
森林公園、横沢入里山保全地域 - 日帰りできる自然公園
都立八国山緑地、都立小宮公園、都立水元公園、埼玉県立秋ヶ瀬公園、千葉県立青葉の森公園、松戸市立21世紀の森と広場、神奈川県立東高根森林公園、神奈川県立座間谷戸山公園
自然に、無理せず、森林で・・・
森林は、先程挙げたような五感を通した刺激が豊富で、単に体の不調が治ることだけでなく、測定できない心の面や生活の質を向上させていく、いわゆる「癒し」の効果が高い場所です。そして、自律神経、ホルモン、免疫面などに良い影響が出て、自然治癒力が増強されます。また、現代の疾病は自然・環境要因の悪化によるものも少なくないため、単に環境として健康に良いだけでなく、森林を大切にしようとするエコロジー意識が育ち、更には「自分と自然が繋がっている」という感覚も得られるようになります。更に、部屋の中でなく、森林という環境で人生観や世界観を見つめ直すことで、自然体であることや主体的に生きることの重要性に気づくことができます。多種多様な物から構成されている森林で考え活動することで、色々な個性があっていいという多様性の価値に気づくこともできます。
森林セルフケアとは、治療ではなく、森に行って自分で自然に無理なく自分自身をケアする健康法です。「無理なく」という点が大切で、歩き過ぎた、疲れ過ぎたにならないように気をつけて頂き、一人一人ご自分に合った森の活用をして頂ければ幸いです。
構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)