- パート1
- エネルギーと環境ビジネス最前線
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- 18:30開始
レポート
再生可能エネルギーと持続可能な世界
レポート
再生可能エネルギーと持続可能な世界
21世紀になって、2050年ごろの世界のエネルギーの多くを再生可能エネルギーで供給するシナリオ研究が増加している。効率の高い省エネルギー技術を普及させて、急速に普及し始めた太陽光や風力など変動する供給源を組み合わせるとどんなことが可能になるか。「エネルギー狩猟型文明」から「エネルギー耕作型文明」への転換、持続可能な世界の可能性について、皆さんとともに考えたいと思います。
株式会社システム技術研究所所長・
京都エコエネルギー学院学院長
再生可能エネルギーのベストチョイスを探る
これまで人類の暮らしを支えてきた化石燃料は、いずれなくなってしまいます。そこで、まず今ある再生可能エネルギーの可能性と問題点について考えてみましょう。
再生可能エネルギーの可能性
*安心・安全 *セキュリティ向上 *エネルギー自立 *CO2排出なし *サステナブルである *核拡散の減少
再生可能エネルギーの問題点
*安定供給が可能か?(太陽や風力は変動する供給源) *エネルギー資源は国内に充分あるか? *(変動があるのなら)大きなエネルギー貯蔵が必要か? *コストは大きいか?
これらを念頭に置いて、各再生可能エネルギーの特徴を比べてみたいと思います。
太陽光エネルギーは、1m2当たり最大1kWの密度です。太陽エネルギーの15%程度を電力に変換します(最近では20%のものもある)。しかも、風力発電のように音をたてることなくエネルギーに直接変換できます。また太陽熱発電は、太陽エネルギーの30〜70%を熱として捕獲します。一方、風力発電は、1m2当たり1〜20kWの密度です。風速の三乗に比例して大きくなり、風のエネルギーの25〜40%を電力に有効利用可能です。バイオマス発電は、年間の太陽エネルギーの1〜2%を固定。波力発電は、海岸線1m当たり5〜25kWであり、これらの中でエネルギー密度は最大です。
つまり、エネルギー密度の大きさは、波力>風力>太陽熱・光>バイオマスの順になるわけですが、波力発電はエネルギー密度が大きいため、大抵その装置は壊れています。また、風力発電が今一番経済性がある理由は、風力のエネルギー密度と飛行機を作るような材料技術が、ちょうど見合っているからです。太陽光発電は、エネルギー密度が低い一方、耐久性が高いという利点があります。ただコストが高く、この問題がクリアできれば、騒音がないので住宅地域でもどこにでも設置でき、広く普及する可能性があります。因みに、90年代には、太陽光発電の製造エネルギーは太陽光パネルが生み出すエネルギーに比べて大きく、製造エネルギーを回収するのに5年以上もかかると言われていましたが、現在は1年程度で回収できるほどになりました。
進化を続ける再生可能エネルギー
これら再生可能エネルギーは、その安定性の観点から、全電力需要の10%程度を占める分には問題ないが、それを超えた場合、社会生活に支障を来すのではないかと言われてきました。しかし、2008年11月24日、スペインの風力発電が短時間ですが全電力供給の43%に達したことが、ちょっとしたニュースになりました。こういったことが可能な社会が現実となりつつありあるのですが、その鍵を握っているのがスマートグリッド(賢い送電網)です。これは、ITを活用し、変動する再生可能エネルギーを、その供給量に応じてデマンド管理を行うシステムで、このスマートグリッドとの組合せによって、再生可能エネルギーでも安定性を担保できるようになり得るのです。
コストの問題について言いますと、太陽光発電のコストが下がれば広く普及する可能性があると先程お話ししましたが、それに関して私は90年代初頭から、累積生産量の推移と価格がどう変動してきたかに注目しています。累積生産量とは、生産量が累積すれば、その生産に関するノウハウが貯まるので、その産業の一種の学習能力を示すものとなります。そこで累積生産量と生産コストの関係を分析すると、太陽電池の累積生産量が2倍になるとコストが82%に低下することが分かりました。この低下傾向はまだ続いており、このままいくと2020年までに既存電力と競合する可能性があります。このコスト低下の割合は、太陽光では80%、風力では90%と計算され、2030年頃には太陽光パネルは20万円/kW以下になり、家電製品並になると予想しています。
もちろん、持続可能な世界の構築のためには、それ以外にCO2排出削減の取組みも重要です。ハイブリッドカーや発光ダイオードに代表されるエネルギー効率の高い技術の利用、公共交通の発達や環境税など社会システムの効率向上、エコドライブ・カーシェアリングやクールビズなどライフスタイルの転換、それらに加えて再生可能エネルギー利用の増大・・・こうしたことを組み合わせて、持続可能な社会を実現していけると思います。
省エネルギーが持続可能社会の扉を開く
日本の再生可能な電力供給シナリオを考えてみると、まず初めに必要なことは省エネルギーです。電力需要を削減し、次に削減した電力需要を再生可能エネルギーで満たすのです。省エネルギーに取組むということは、単位エネルギー当たりの費用も安上がりですし、こうして電力需要が削減されれば、問題の規模が小さくなるということが、何よりも重要なことなのです。
私がこれらの研究を通して提唱したいのは、エネルギー耕作型文明への転換です。太古の時代に、食料に関しては狩猟から農耕への転換が行われたように、エネルギーについても狩猟型から耕作型にシフトしていく必要があります。エネルギー狩猟型文明とは、地下から石油、石炭、天然ガス、核物質などを掘り出す社会です。それは、CO2を排出し、気候に影響を与え、いつの日か資源の枯渇へと辿り着きます。
一方、エネルギー耕作型文明とは、地上で太陽エネルギーを受けとめ、農業のように太陽光、太陽熱、バイオマス、風力などのエネルギーを利用する社会です。まだ発展途上ではありますが、エネルギー利用効率を高め、エネルギー需要を減少させることで実現させることが可能です。天候に依存するものですが、気候に影響を与えることはありません。食料について、私たち人類は持続可能な社会を作り出すことに成功しています。エネルギー問題についても、ぜひこうした社会を目指す必要があるのではないでしょうか。
構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)