- パート2
- 食の魅力・学び・安全
- 日本橋会場
- 14:30開始
レポート
食の安全と放射能
レポート
食の安全と放射能
東日本大震災に伴う福島第一原発事故は、コメや野菜を含む多くの食べ物の放射能汚染をもたらし、日本人の食の安全に対する大きな脅威となりました。基準を巡って生産者と消費者の意見の対立も生じ、風評被害も起こっています。24年にわたるチェルノブイリでの活動から得た教訓を福島で生かし、内部被曝のリスクを最小化するために何が大切かを考えます。
NPO法人チェルノブイリ救援・中部 理事
福島から流出する地球レベルの放射能汚染
23年前、私達はチェルノブイリの被災地に入り、救援活動を行ってきました。当時は、まさかこれと同じような事故が日本で起こるとは考えもしませんでした。そのチェルノブイリで実際に感じるのは、事故前と事故後では人々は全く違う世界に住んでいるということです。10歳くらいの女の子が描いた絵を貰った事があるのですが、その絵の左半分は普通の世界を描いているのに、右半分は全部グレーです。子供でさえそんな気持ちになってしまうような、違う世界の扉を開けてしまった現実の中でどう対処するのかを、私達は考えていかなければならないのです。
今、チェルノブイリで起こっている新たな問題の一つは、原子炉をコンクリートで覆い固めた、いわゆる「石棺」が、地盤沈下により至る所で裂け、雨が降ると中に雨水が貯まり、汚染した雨水が地下水を更に汚染するという状況です。その対策として、石棺を更に一回り大きなドームで覆うという作業を行っています。このような苦労が27年経っても続いていますが、あと50年はこれが続くと言われています。このように原発事故において水の問題は重大です。福島第一原発の場合は元々山を切り開いて建設したため、当初から850t/日という量の地下水を汲上げては海に捨てていたほどの場所です。それが放射能汚染にさらされているのだとしたら、これは産業廃棄物の海洋投棄を禁止するロンドン条約違反ではないでしょうか。この条約ができてから今までに世界全体で海洋投棄された放射性物質の量は、80×10の15乗ベクレルと言われています。一方、これまでに福島原発から流れ出た量は50〜60×10の15乗ベクレル、つまり過去の総量に迫る勢いで流出しています。この問題は地球レベルの汚染をもたらしているという認識が必要なのです。
まずは事実に目を向ける
私達の生活レベルに目を移しても、除染は進んでいませんし、被曝の可能性が下がったと言いきれる状況でもありません。その中で私達はどうやって生きていけばいいのか、チェルノブイリでの経験から言えるのは、まず事実をきちんと知ることです。見たくない物から目を背けず、恐い物は恐い、安心な物は安心と峻別し、被曝の影響をどうすれば低くできるかを考えることです。
私達の活動の基本は、被曝者の医療支援、親が亡くなったり働けなくなった子供たちの支援、汚染地域で暮らしている人々の生活支援などですが、これらを土台にして2011年4月から南相馬市でも活動をスタートしました。活動の柱の一つは、放射能汚染の測定です。南相馬市内全域(生活圏)を500mメッシュに区切り、各区画での空間線量率を半年ごとに測り、その変化から将来を予測するというものです。これまでの測定で、道路や空き地などでの空間線量率は、セシウムの物理的半減期から推定されるより2倍の速さで減少していることが分かりました。原因は、恐らく雨によって表層の土壌が拡散したためで、事故直後と比べると1/4程度に減少。人間が生活可能とされる年間1mSv以下の面積が、当初の5.1%から51%に拡大しています。
もう一つの活動は、南相馬市内に放射能測定センターを設置し、住民が持ち寄る食品・土壌・井戸水などの放射能を測定するサービスです。これによって分かってきたのは、汚染しやすい野菜・しにくい野菜の区別は、主に「植物の性質」と「土壌の性質との組合せ」によって決まってくるということです。植物の性質とは、セシウムと組成が近いカリウムの濃度が高い作物や、根を細かく地表にたくさん張る作物は汚染しやすく、直根型の野菜は汚染しにくいということです。例えば、ニンジン、ゴボウ、大根などの根菜類、ネギ、タマネギなどのネギ類、ナス、トマト、ジャガイモなどのナス科、キャベツなどは汚染しにくく、ブロッコリー、菜種、大豆、蕗、紫蘇などは汚染しやすい野菜です。また、土壌との組合せについては、カリウム濃度が低い土壌はセシウムを吸収しやすく、また、酸性土壌もセシウムの吸収度が高いことが分かりました。これらの組合せによって作物が汚染しやすいかどうかが決まってきます。
放射能から身を守るには
一口に言えば、外部被曝を防ぐためには汚染源から距離をとるしかありません。5mSV以下、できれば1mSV以下が基本です。事実ウクライナでは、今でも汚染地域にある学校の子供たちを年に1〜2ヶ月汚染していない場所に避難させて、被曝による影響を緩和させているほどです。
外部被曝に対しては、この距離を取るということと、生活空間を除染することになりますが、除染は中々上手くいかないのが現実です。特に、屋根は放射性物質が積もってしまうので、本来ならば替える事が望ましいのですが、費用的に困難な人がほとんどです。であるならば、子供は二階に住ませないことが必要です。
内部被曝対策としては、当たり前の事ですが、汚染したものを体に入れないことです。それでも知らず知らずのうちに体に入ってくるものがあることは、通常生活でも避けられません。そこで、「影響を減らす」という対策も必要です。影響には二つの種類があります。放射線が当たって遺伝子が壊れる直接的影響、そして、細胞の中の水が壊れて悪影響をもたらす不自然な物質(フリーラジカル)の影響です。直接的影響への対策としては、例えば、ジャムを作る時に出る粘っこい成分・ペクチンは、セシウムを固く結合して水に溶けなくする性質があります。その結果、腸管から吸収されず体外に排出できます。エビやカニの殻、キノコなどにあるキチン・キトサンという成分にもセシウムを体外に排出する効果があります。フリーラジカル対策としては、抗酸化作用のあるビタミンA・C・E、カロチノイド、ポリフェノールなどが効果的です。また、味噌など発酵食品には多種類の抗酸化作用のある物質が含まれており、中でも色の濃い味噌ほどフリーラジカルを消滅させる力が強いそうです。
このように、色々な事実をきちんと知り、工夫をして自分を守っていく姿勢が、今後私達には更に求められる時代になっていくのではないでしょうか。
構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)