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- 18:30開始
レポート
南相馬ソーラー・アグリパーク「グリーンアカデミー」が開講
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南相馬ソーラー・アグリパーク「グリーンアカデミー」が開講
南相馬ソーラー・アグリパークは、津波被災地 約2.4ha を活用し、南相馬市の再生可能エネルギー推進ビジョンの下、太陽光発電所・植物工場・体験学習を組み合わせた福島復興の拠点です。
福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会は、2013年4月から、体験学習プログラム「グリーンアカデミー」を運営し、南相馬など福島の子どもたちの成長を継続的に支援するとともに、全国の人々との交流により風評被害の払拭と福島への信頼回復に努め、福島の人々の生活と産業の復興に貢献します。
一般社団法人福島復興・
ソーラー・アグリ体験交流の会代表理事
“仕組みの支援”〜南相馬ソーラー・アグリパーク設立へ」
私は震災前の2010年まで東京電力の役員を務めており、原子力災害について責任があります。一方、私は福島県南相馬市の生まれです。震災直後、大切だったことは「物の支援」でした。私も出身地の南相馬へ、東京から2トントラックで支援物資を何度も届けに行きました。その際、物資の受入れ先になって頂いたのが、栄泉堂さんという和菓子店でした。3回目の支援物資をお持ちした2011年4月半ば、その栄泉堂の奥さんから「子供たちのために何かを…」という言葉を頂き、その後の東京と南相馬を往復する2トントラックの中で、この言葉について考える日々が続いたのです。そして、物流が復旧し「物の支援」が役目を終え始めたら、次には「仕組みの支援」に移行すべきだと考えていたことと、この栄泉堂の奥さんの言葉がきっかけとなり、その「仕組み」とは、子供たちの成長のためになる仕組みであるべきだと思い至りました。
私は、NPO活動を通じて東京・豊洲のキッザニアと深い関係があり、このキッザニアのように仕事体験をできる施設が子供たちの役に立つと考え、立ち上がりました。そして、「仕組みの支援」という点で想いを同じくする東芝との事業の検討、農水省や南相馬市からの支援など、文字通り官民一体となって、2013年3月11日に「南相馬ソーラー・アグリパーク」をオープンさせることが出来ました。2016枚の太陽光パネルを敷き詰めた500kWの太陽光発電所とドーム型植物工場2棟を持つ施設です。
感謝の心を自ら考え行動する力へ
箱ものを作れば復興に役立つということはありません。その事業を継続して初めて復興に役立つのです。500kW(170戸の一般家庭が最大に電気を使う量程度)の発電所が大きな売上げを出せるわけではありません。この施設は、そもそも売電が目的ではなく、子供たちに体験学習の場を提供することが目的ですから、キチンと赤字を出さずに経営を続けることが重要なことなのです。「仏作って魂入れず」という諺がありますが、いかに太陽光発電所や植物工場を作っても体験学習のソフトが無ければ、この諺の通りです。もちろん私たちは、こだわりを持ってハードを作りましたが、それ以上にソフトにこだわりを持っており、この想いで展開しているのが、「グリーンアカデミー」という子供たちの体験学習を通じた成長支援プログラムです。
グリーンアカデミーのプログラムにおいて、私が特に大切だと考えているのは、子供たちの中に「支援への感謝」が芽生えていることです。去年の春の高校野球大会で、石巻工業高校のキャプテンが選手宣誓をしました。1分以上の長い選手宣誓の中で、彼は全国からの支援への感謝と、自分も人のために役立つ人間になりたいと自らの言葉で宣誓し、大きな感動を呼びました。被災地では、同じように感じている子供や大人がたくさんいます。この気持ちが非常に大切なのは、今日ここにいらしている皆さんも色々なお仕事をされている方々だと思いますが、それはもちろんご自分のためでもあるでしょうが、そのお仕事は人のためになさっていることだからです。だからこそ、自分のためにもなるのです。このような「人のために仕事をしたい」という気持ちを、自ら考える力、自ら行動する力、自ら変えていく力…つまり「生きていく力」に発展させていくためには、体験学習が有効だと私は確信しています。特に、最初から設定された答えを教えたり、その答えに従って何かをするような学習ではなく、試行錯誤したり、自分で仮説を考えて実証してみる…そういう体験学習であれば、自ら考える力や行動する力を持てるようになるのではないでしょうか。しかもそれを、小中学校の総合学習という正式な授業の一環として行うことで、学校の教育と連携していきたいというのが私たちのコンセプトであり、それがすでに始まっています。この中から長期の復興を支える地元人材が輩出されることを私たちは期待しているのです。
グリーンアカデミー、それは小学生から社会人までの人材育成
このようなコンセプトに基づいて作られたグリーンアカデミーの体験プログラムでは、身近な道具で自然エネルギーに気づく実験から始まって、太陽光発電所のパネルを自らの目でチェックする巡視体験、6枚のパネルを自由に動かして最大発電量を探り当てる発電研究体験、電気自動車が走る機能だけではなく、蓄電というスマートシティにとって重要な機能を担うことを体験する電気自動車による給電体験、植物工場の見学体験を行います。そして最後に、これらを通して得られた学びを深化させるために、この施設のために寄附をしてくれた人々へのお礼の言葉を書いて貰っています。子供たちには、なぜ無料でこの体験ができたのかを忘れて欲しくないわけです。感謝の気持ちがあるからこそ、人のために働こうというモチベーションが生まれます。子供たちからは、『寄附をして下さってありがとうございます。おかげでとても面白い体験が出来ました』…こんな素直な気持ちのメッセージが返ってくるのです。
そして、すでに私たちは、このようなプログラムをもとに高校の授業にも出掛けて行ったり、大学生や社会人のインターンを受け入れるなど活動の場を広げており、小学生から社会人まで、地域復興を担う地元人材の循環型育成に長期的に貢献できる存在を目指して事業を展開しています。
構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)