合田 真氏 日本植物燃料(株)代表取締役
豊かな生活と環境の共生
イノベーションは辺境から 地産地消型エネルギーから電子マネーまで
講座概要
未だ遠くに感じる方も多いアフリカで大きな変化が始まっています。日本のような従来型インフラが無いからこそ、最先端のテクノロジーがすぐに活用され人々の生活を変えるとともに、先端企業が一層集まる場となりつつあります。電気・ガス・水道の無い村で起きていることをご紹介します。
講座ダイジェスト
関心がなければ、芽は出ない
私たちの会社は、日本植物燃料という社名で、再生可能エネルギー・食料・金融という3つの異なる事業に取り組んでいます。活動の拠点は、アフリカのモザンビーク。マダガスカルと海を挟んで向かい側、南アフリカとタンザニアの間にある国です。日本人にあまり馴染みのないこの土地で、なぜ私たちがビジネスを手がけているかというと、「一人一人の心を育てることで、村の共同体を育成・強化する。(心田開発)」ためです。
心田開発とは、心を田んぼのように耕すという意味で、二宮尊徳が残した言葉です。彼は、日本の江戸末期、井戸はあっても水道はない、電気もない、ガスもないという、どちらかというと今のモザンビークに近い環境の中で、日本の農村を再興させ、のちに「プロジェクトをやる時には、村の人間たちが自分たちでやる意味を感じ、覚悟を持って本気でやろうと決めたら、そのプロジェクトの8割は成功したようなものだ」と伝えています。私たちも、モザンビークで色々な取り組みをしていますが、なによりもまず心田開発、村の人の心を育てることを軸に据えています。
新しい「ものがたり」をつくる
ではなぜ、バイオ燃料によって再生可能エネルギーを作るところから事業を始めた私たちが、電子マネーによる金融システムの構築にまで手を広げることになったのでしょう。それは、農村生活において、少しでも生活を良くしようと思ったら、エネルギーと食料、そしてお金をやりとりする仕組みが必要だったからです。ここで、私が今の世界をどう見ているかについて簡単にお話しします。まず、私は世界の仕組みを「現実」と「ものがたり」のふたつに分けて考えています。「現実」とはエネルギーや食物などの資源、物理的に存在しているもののことで、人間が都合よく増やしたり、ルールを変えることが出来ないものを指します。一方で「ものがたり」とは、宗教や法律、思想や国家など、人間が自分たちで作った、物理的には存在しないもののことで、その在り方は人間が変えることが出来ます。ちなみに経済活動の中心であるお金は、人間が作り出したものなので、「ものがたり」に入ります。
日本では、2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入するまで、マイナス金利というルールははありませんでした。このように「ものがたり」は「現実」に合わせて変化させることが可能です。そして、私は「現実」に合った「ものがたり」を作ることが、より良い社会の仕組みを作ることだと考えています。逆に言えば、「現実」に反した「ものがたり」を持ち続けることは、システム自体の崩壊に繋がるリスクを高めます。そして現在は、今まで分配出来ていた資源の総量(現実)が減少している中で、今までの仕組みやルール(ものがたり)のまま世界が走っている状態だと私は思います。
話を聞けば聞くほど、なぜアフリカで行うなのかと思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちは、アフリカには先進国で当たり前になっているシステムが構築されていないからこそ、新しいモデルケースが生まれる可能性を感じています。例えば、今までは物を運ぶために道が必要でした。そのために莫大なコストをかけて道路を作ったり、橋を作ろうとしてきました。しかし、今は最先端テクノロジーを使ってドローンを飛ばし、ものを運ぶことが出来る時代です。電話や銀行も同じです。少し前であれば、各家庭に固定電話を、各村にATMを設置しようとしていましたが、今や携帯電話ひとつあれば、連絡のやりとりもお金の送金も行えます。莫大な投資をせずに、問題解決をする手段が溢れている時代なのです。
最先端テクノロジーとアフリカ
私たちは、こうした考えを持って、実際にモザンビークでお金の仕組みを築こうと活動してきました。その中で苦しんだのは、やはりお金に対する認識の違いです。彼らはまず、お金を安全に保管出来る場所を持っていません。家のどこかに隠す人もいれば、肌身離さず持っている人もいます。彼らにとって大事なのは目の前の生活であり、遠い先にある未来ではありません。そのため、有効なお金の使い方や盗みに対する倫理観を根付かせるのはとても困難でした。そこで私たちは、そもそもみんながお金に触らなくて良い方法はないかと考え、結果として電子マネーシステムの導入を実施しました。これにより、お金の保管や管理の面が改善されただけでなく、電子マネーに残る履歴がその人の信用情報として活用され、融資を受ける仕組みを作ることが出来ました。
ただ、モザンビークでは国民が国民IDを持っている割合は全体の2割程度です。私たちは銀行講座を開くとき住民票を取って、身分証明書を提出することが当たり前ですが、モザンビークではIDと電子マネーに記載されている名前が一致していないという事態もよく起こります。そのため、最終的にはバイオメトリクスを使用して、生体認証を行う必要があります。つまり、どこの誰であるかということがまず管理されていなければ、他のシステムを作っていくことは難しいということです。
しかし、それほどシステムが完成していない国で、最先端テクノロジーを使った新しいシステムを作ることが出来れば、歴史の中で日本とアフリカが交差する時がくるのではないでしょうか。築いてきた仕組みの維持が難しくなるであろう日本と、莫大な投資を必要とせずに最先端テクノロジーによって課題解決を行うアフリカ。アフリカで出来上がった仕組みを、人口が減少していく日本に活かせる日がきっとくるはずです。アフリカは日本などの先進国からまだまだ多くを学んでいる状態ですが、最先端テクノロジーの出現によって、全く新しい仕組みが築けるチャンスはどんどん広がっていると私たちは思っています。
構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)/写真:廣瀬真也(spread)