市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題やSDGsを理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。31年目を迎える本年は持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から新しい“ゆたかな”暮らしを考えていきます。
オンライン講座 無 料

カポックノットは木の家由来のファッションブランドです。
1200年の歴史がある羽毛を代替する天然素材としてのカポックに可能性を見出し、2019年にスタートしました。
SDGsの認知度が高まって以降、様々な事業が環境や多様性を重視したものにシフトしつつありますが、社会性と事業性を両立しなければ継続していきません。
どのような事業であれば、その両立が図れるのか、共に学ぶ時間に出来ればと思います。

講座ダイジェスト

サステナブルなファッションブランド「カポックノット」ができるまで

僕は創業77年目のアパレル企業の4代目です。学生時代は社会に良いことをしながら事業を展開することを夢見ていました。大手の繊維メーカーで働いた後に家業を継ごうと思ったときに、大量生産大量廃棄のアパレル業界は、悪者という風潮があることを知りました。また、地球環境に良くないのではという悩みも生まれてきました。そのようなときに出会ったカポックという新しい素材を通じて、世の中を変えていきたいと思いました。

カポックはインドネシアに生えている木の実で、乾燥させると綿が採れます。この綿はコットンの1/8の軽さなのに吸湿発熱する特徴があり、軽いのにダウンのような暖かさをもたらします。さらに木の伐採が必要なく、環境に優しいのが特徴です。

事業化に向けては、学生時代の恩師に「やりたいこと(研究)を見つけるために、事例を100個ぐらい集めてみるといい」と言われたため、いろいろなブランドの事例を集めました。その結果として見えてきたのが、「サステナブル」「素材」「アパレル」という三つのキーワードでした。その三つを集約してできたのが「カポックノット」というブランドです。

このブランド事業は、インドネシアで発見したカポックをアパレル産業にどんどん広げていけば、環境負荷の低い代替手段として活用できるのではと考えてスタートしました。非常に多くの方に受け入れられて、3年で5000万円近くの資金をクラウドファンディングで集めることに成功したほか、今では多くのメディアで取り上げていただいています。

それをバネに取り組んでいるのが、1商品あたりのCO2排出量を、独自開発した計算式によって見える化するプロジェクトです。そうすることで、同じ値段のものと比べたとき、CO2の排出量が下がるならこっちを選ぼうという新しい“ものさし”を持ったのです。いつか食品の栄養表示と同じように、CO2の排出量や水の使用量なども見える化される未来が待っていると思って、このプロジェクトに取り組んでいます。

昨年は「2030年のダウンのスタンダードをつくる」というコンセプトで、すべて植物由来のダウンコートをつくりました。そういったことを通じて、経済産業省の「J-Startup Impact」という、社会課題や環境課題へ取り組みながら事業を展開していこうとするプログラムに選んでいただいています。

本当の意味でのサステナブルを実現し得る「カポック」

僕は環境配慮だけでなく、持続可能なビジネスをやっていきたいと考えています。この仕事が社会にあることで、環境、人権、消費者、生産者などのすべてに貢献できることが、本当のサステナブルであるということが見えてきました。

一方で環境や誰かのためだけの取り組みだと購買行動につながらず、長続きもしないと感じていました。そこで自分が消費者目線のものを創る必要があると考えました。そのときに機能的な商品が欲しい、作りたいと思いました。それが消費者、生産者、地球環境のためにもなるなら「めちゃくちゃいいやん」と思い、今の事業を始めたのです。そしてまずはダウンに注目したのです。高級なダウンは20~30万もしますが、4~5万円で買えるとなれば置き換えが進むと思いました。

また、防寒着に使われる素材の大半は動物に依存しますが、カポックは植物由来の防寒素材なので、ダウンのように鳥を傷つけることがありません。ポリエステルなどの防寒素材と比べても、カポックなら脱石油も実現できる上に、植物はCO2を吸収する側なので、より環境負荷が低いという特徴があります。それでいて軽くて薄く加工できます。しかも低コストで作れることも特徴です。このように値段に満足でき、機能性も優れていて、環境に優しいという、消費者が選びたくなる選択肢を目指しています。

しかし、カポックが多く生育するインドネシアでは、一部の地域では伐採が起きています。カポックはマットレスに詰める綿として使われることが一番多かったのですが、バネのマットレスに変わってきて、不要になったためです。カポックの新たな使い道ができれば緑を守れて、現地に雇用が生まれます。そういった意味でも、地球環境に貢献しつつ労働環境も整備できるなど、本当の循環を生み出せるブランドになれると考えています。

始めるときは現地に行き、実のなる様子や、綿を採る手作業を見せていただきました。その綿を使って日本の縫製工場と試作を繰り返すなど、何度もトラブルを乗り越えて、ようやくカポックの服を作れました。

カポックノットのコンセプトは「Farm to Fashion」ですが、これにはすべての行程に関わる一人一人の笑顔を大切にしながら成長していこうという思いを込めています。生産者から消費者にファッションとして届き、さらにその一部を自然に還元することで、何度も循環の輪を生み出せる製品を目指しています。

サステナブルを考えたとき、新しいしい物を買わない方がいいという風潮があります。僕らもそれを理解していますが、新しい服を買ってほしいと思っています。より環境負荷の低い私たちのようなブランドなどによって消費の輪を循環させていかないと、本当の意味での持続可能性につながらないと思っているのです。そのためにもカポックという素材はすごく重要だと思っています。

「カポック」という素材をより身近な存在にしていくために

今の世の中では、動物や石油由来のものから植物由来のものへのシフトがビッグトレンドの一つになっていると思います。しかし、どちらかというと動物愛護や環境保護という利他のための文脈ばかりでした。僕はお客さん側に利己的なメリットがありながら、いつの間にか動物愛護や環境保護などの利他に結びついているという世界が、すぐそこまで来ていると感じています。

そういった背景もあり、さまざまな企業とコラボレーションしています。例えば廃棄されるリンゴの皮を使ったレザーのバッグに、カポックのシートをクッション材として使うなど、環境配慮を実現しています。そうすることで、世の中にカポックという素材を広げていこうとしているのです。

サステナブルや環境配慮といったものは、一朝一夕では広がっていかないと思います。私たちの店舗で商品に触っていただき「こんなブランドがあったよ」とご家族や友人に伝えてもらうというだけでも非常にありがたいと思っています。皆さんもぜひご体感ください。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します。

質問1カポック農園の環境負荷や、労働環境について教えてください。

回答1カポックは自生しているものもありますが、僕たちはどのような品種が、どういった労働環境で作られているかということが非常に大事と考えているので、提携した農園から買っています。しかし、コットンや他の繊維のようにグレードが決まっておらず、労働環境のデータを誰も持っていないので、自分たちでアンケートを採り、労働環境を知った上で買うことが大事だと思いながら始めています。最近は多くのブランドがカポックに注目し始めましたが、そこまで踏み込んでいないのが現状です。僕たちの取り組みにはそういった意味もあることを知っていただきたいと思っています。

質問2アパレル業界を今後どういうふうに変えていきたいですか?

回答2僕は家業の跡取りであるとともに、スタートアップの経営者であるといった立場です。また、技術的なことを考えながらPRや販売も行えるため、サステナブルを採り入れたことのない人と、採り入れている人の間の通訳ができることが自分の特性だと思っています。そういう立場をうまく使いながら、カポックの良さを広めて、共感してくれる人が徐々に増えていくといいと思っています。また、そのような行動を取ることで、誰かのために貢献できると思う人が増えると、より良い世の中が待っていると思っています。ですので「カポックノット」を通じて、多くの方が気軽に取り入れられるサステナブルの選択肢をつくっていきたいと思います。

質問3今の環境課題を自分ごととして捉えるためには、どうすればいいと思いますか?

回答3すでに地球温暖化などによる影響をダイレクトに受け始めているので、関係ないと言っている世の中ではないと感じています。例えばインドネシアでは、近いうちに首都が移ります。これは、車や人口の過多による地盤沈下や、地球温暖化による水位の上昇などによって、このままいくとジャカルタが沈んでしまうため、別の島へ首都を移すという話です。先進国が生み出した害を同じ時代のインドネシア人が被っているのです。何十年後の日本で同じことが起こるかもしれないと考えれば、今起きている課題を身近に感じられるのではないでしょうか。