講座ダイジェスト
自然につながる水族館
アクアマリンふくしまは2000年7月にオープンしました。黒潮という暖流と親潮という寒流がぶつかる境目が福島県沖にあることから、「潮目の海」という大水槽を中心に福島県の豊かな漁場を体験いただける水族館を目指しています。親潮や黒潮を再現した生き物の展示はもちろん、福島県で絶滅危惧種に指定されている生き物や人間が活動する以前の自然を想像して再現した展示コーナー「わくわく里山・縄文の里」などの一風変わった展示が特徴的です。
また「命をいただく教育」の一環として大水槽「潮目の海」の前に寿司カウンターをオープンし、マグロやカツオを目にしながらお寿司を食べたり、外の釣り堀では実際に釣った魚を食べたりする体験も行っています。オープン当初はガラスの建物だけでしたがビオトープなどのエリアを徐々に拡大し、現在は東京ドームよりも大きな敷地を有しています。ここからは「環境水族館」としてどのような教育や取り組みをおこなっているのか、いくつかの動画をお見せしながらご紹介していきます。
本物の自然を学ぶ入り口として
「ふくしまの川と沿岸」というコーナーでは福島県内に自生している植物を展示し、上流から下流、そして海までを再現した水槽が並んでいます。展示には本物の植物を使用しない施設も多いのですが、当館では本物の植物を使用しています。ここではヤマメやニッコウイワナ、ウグイやアユといった川の魚たちから絶滅危惧種に指定されているゲンゴロウやアカハライモリなどをご覧いただけます。他にも外来種のコイや湧水といって綺麗な水中でしか生息できないヒガシシマドジョウ、湿地や池に生息する生き物の展示も行なっており福島県全体の自然を感じていただけます。
「弁財天うなぎプロジェクト」の展示コーナーでは、ウナギの生息地として天然記念物に指定されている福島県いわき市の沼ノ内弁財天の賢沼をシンボルとして、福島県内の希少生物の調査や保護活動を紹介しています。こうした希少生物の保全活動の延長として、自然の観察会や子どもたちへの啓発活動にも力を入れています。敷地内にあるビオトープ「BIOBIOかっぱの里」で行っている観察会もそのひとつです。ビオトープには自然に入ってきた昆虫や福島の淡水域の生き物が生息しており、子どもたちは生き物を捕まえる体験を通して生き物について学ぶことができます。
同時に施設外での観察会も行っています。自分の目を通して身近な生き物を知り、魚を獲るという体験をしてもらうことが目的で、近所の川に子どもたちと一緒に入り、生き物を観察します。私は自然が持つ危険性から自然に触れ合う機会が減っていると同時に、両親が共働きで忙しく自然に触れ合う機会が持てないご家庭が増えていることになどを課題として感じています。そのため、子どもたちが実際に自然や生き物に触れ、興味を持つことで生き物や環境の問題にも関心を抱いてもらう機会を大切にしています。
震災と向き合いながら体験を増やす
ここからは実際に外を歩きながら、展示や取り組みについて説明していきます。まずは「BIOBIOかっぱの里」です。ここには福島県の海に近い淡水域に生息している生き物がいます。ビオトープは環境を自然に近い状態を保つことで生き物が元に戻ってくることを目的としています。風や鳥の糞などから生命力の強い外来種の種子などが入ってこないように丁寧に管理することがとても重要です。また、ここには宅地造成によって住む場所を失ったミナミメダカの保護も行なっており、福島県の自然を再現した展示をつくり、人が自然と触れ合う機会を作っています。
夏から秋に移ろうこの時期は、ミソハギやヒヨドリバナなどをご覧いただくことができます。「BIOBIOかっぱの里」から森のトンネルを抜けると海のエリアとなり「蛇の目ビーチ」と「釣り堀」があります。「釣り堀」にはマアジやシロメバル、マダイなどの季節の魚がいて、自分で釣って食べることができます。また、新型コロナウィルスの感染防止の観点から現在は休止していますが、釣った魚を捌く体験もおこなっています。「蛇の目ビーチ」は世界最大級のタッチプールで、子どもたちが生き物と触れ合うことを目的としています。海で安全に遊ぶ方法をアクアマリンふくしまで学ぶことで、実際の海にも興味を持っていただけたら嬉しいです。
アクアマリンふくしまでは海と陸地の境目に沢山の松が植えられています。松は東日本大震災の時に人々を守ってくれた植物のひとつです。当時は大量の海水が流れ込み、柵が壊れ地盤沈下が起こりましたが、今はその場所を修復して新たなビーチを作りました。今でも地震が起こる度に様々な点検・修復を行い管理しています。アクアマリンふくしまは地震と向き合いながら、福島県の自然や生き物と触れ合える機会を作り続けています。自然の中で沢山の生物を見ていただける環境なので、県外の方にもぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。
ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します
質問1田んぼは水を抜く時期もあると思いますが、メダカはそのまま生きていけるものなのでしょうか?
回答田んぼは中干しをしたり、冬には水を抜いたりすることが多いですが、メダカも水と一緒に川へと流れ田んぼに水を張る時に一緒に戻るため、干上がることはありません。ただ、水を移す時に水深が浅くなることで鳥に襲われるリスクは高まります。またメダカは塩分に強い魚です。津波の影響でビオトープが海水化された時も生き残り、繁殖を繰り返して増えていきました。
質問2ビオトープは今の形になるまでにどれくらいの期間を要しましたか?
回答オープン当初はこの場所は水盤に噴水があるような展示の作りで、そこを造成してビオトープを作るまでには約1年間かかりました。ビオトープは管理し続けることが大事なので作業に終わりはなく、常に進化した状態をご覧いただけるように取り組んでいます。
質問3様々な展示がありますが、どれが一番おすすめですか?
回答順番を付けるのは難しいですね。アクアマリンふくしまのつくりは方角も環境に合わせていて、北には親潮の冷たい海の魚たちや海獣類、南には黒潮の暖かい海の生き物や珊瑚礁、熱帯雨林などの展示が配置されています。建物のつくりに合わせて一連の流れを体験していただくことでお楽しみいただけると考えています。
質問4震災の時に海獣類(大きな魚)は別の水族館に預けていたのでしょうか?
回答地震の影響で檻が壊れて海獣類が脱走すると大変なことになるので、他の水族館にお願いして預かってもらいました。古代魚やその他の生き物も、施設の電源が落ちたことで死んでしまう可能性があったので、同じように預かってもらいました。ただ「ふくしまの川と沿岸」などのエリアは本物の水草や海藻が入っていたため、電源が切れても生き物たちが元気に過ごしていました。魚たちの生命力を改めて感じ、自分達の展示が間違っていなかったと再認識させられました。
質問5「環境水族館宣言」をしている水族館として、大切にしていることはありますか?
回答生き物を無駄にしないということを常に心がけています。外から新しく持ってくるだけではなく、館内で繁殖した生き物を展示できるように取り組んでいます。環境保全も、生き物の住む場所を守る「域内保全」と住処がなくなってしまう可能性のある生き物の繁殖を行い水族館に住処をつくる「域外保全」の両方を並行して進めています。
構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)