「市民のための環境公開講座」は、市民の皆様と共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。30年目を迎える本年は「認識から行動へー地球の未来を考える9つの視点」を全体テーマとし、さまざまな切り口で地球環境とわたしたちの暮らしのつながりを考えます。
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09 変革のレシピ
11/16 18:00 - 19:30

変革のレシピ

誰一人取り残さない環境教育
佐竹 敦子 氏
佐竹 敦子 氏 環境活動家・ドキュメンタリー映像作家

子供たちが自分たちで集めたデータで問題解決について話し合い、声をあげて社会の仕組みを変えて行く。そういうスキルが、これからの複雑な世の中を生きて行く子供たちにとって本当に大切だと確信しています。ニューヨークの貧困地域に住む子供たちと一緒に環境問題へのアクションを起こしながら感じている「環境教育のチカラ」がすべての子供たちに届くようにと活動する中で感じることをお話しします。

講座ダイジェスト

誰もが社会を変えることができる。

私はニューヨークのNPO法人カフェテリア・カルチャーに所属しています。映画「マイクロプラスチック・ストーリー 〜ぼくらが作る2050年〜」では共同監督を務めました。本日はみなさんの質問や感想に答えながら、貧困地域に住む子どもたちと環境問題に取り組む中で感じていることについてお話ししたいと思います。

現在のような取り組みを始めたきっかけは、息子が通うニューヨーク市の公立の小学校のカフェテリアに行った時、床に散らかっているナゲットや牛乳を子どもたちが片付けないまま帰宅していく様子を見たことにあります。カフェテリアの汚さにも驚きましたが、ゴミをそのままにして出ていく子どもたちの姿に衝撃を受けました。すぐに校長先生に「何とかしましょう」と掛け合い、まずは自分がごみを捨てるところから始めました。その様子を見た子どもたちは徐々に分別や掃除に参加し始め、自然と輪が広がっていきました。そうして日本の給食当番のようにリサイクル当番を作り、子どもたちと分別をしたら40袋出していたごみを4袋に減らすことに成功。その様子をビデオに収め色々なところで見せていたら、環境保護庁の方の目に留まり給食のごみ削減の活動を広げることになりました。

その後、もう一人の共同監督であるデビーリー・コーヘンさんと出会い、給食のごみ削減を続けながら環境問題に関する授業を行なったところ「路上にあるごみが海へと流れ、海に住む生き物たちを苦しめている」という話に子どもたちが強い反応をみせました。日本では想像しにくいかもしれませんが、子どもたちの中で貧困地域に住み差別や不平等を感じている自分たちの状況と環境問題が重なったのです。このことから、環境教育は知ることから始まりそこで終わりではなく、“自分ごと”として語れること、そして気候・環境正義の重要性を伝え、声をあげる力を身に付けることが重要だと感じました。映画でも、マイクロプラスチックの問題を伝えると同時に、私がこの活動を通して子どもたちから学んだジャスティス(正義・公平)の視点で環境問題を“自分ごと”として語れる大切さを伝えています。実際、映画で子どもたちが自分たちの学校で取り組んだ「プラスチックゼロ昼食の日」は、2022年の5月にニューヨーク市全体で行われ、11月には全米拡大バージョンを行うことに成功しました。自分たちの行動によって集めた情報をもとに問題解決について話し合い、声をあげて社会の仕組みを変えていく、これを私たちは『変革のレシピ』と呼んでいます。

環境問題が自分ごとになる瞬間。

進行ここからはチャットに届いている質問や感想に答えながら、佐竹さんのお話をお聞かせいただければと思います。

チャット①(質問)「プラスチックゼロ昼食の日」が全米に広がる時、どのような協力者があらわれムーブメントが起こったのでしょうか?

佐竹カフェテリア・カルチャーとニューヨーク市の給食管理部と協力して「プラスチックゼロ昼食の日」を市全体でやろうとなり、映画にも出てくるニューヨーク市ブルックリンPS15小学校(以下、15小)のキッチンの方にメニューを練習してもらうところから始めました。最終的にニューヨーク市内にある小学校約1800校のうちのキッチンがある半数ほどの学校が参加し、その様子をニューヨーク市を中心に18の学校区で構成された共同体の定期総会で発表しました。「みなさんもぜひやりませんか」伝えると次々に「うちでもやってみたい」という声があがり、そこからはとんとん拍子に進んでいきました。

チャット②(質問) 映画の中で大人が子どもにジャスティスを教えるのではなく、子どもたちが自分たちのジャスティスを大人に伝えている様子が印象的でした。この動きはアメリカの教育によるものなのでしょうか?

佐竹アメリカには意見を言う文化、そして個々の違いを認め合う土壌があると思います。その上で、子どもたちは平等な権利を持っているという感覚もあります。しかし社会をどう変えていくかは体験しないとわからないので「まず自分がやって、それを広げればいいんだ」という経験が積めるように大人たちがそっと子どもたちの背中を押すように心がけています。この時大事なのは、大人が先に答えを教えないことで子どもたちが自分たちで自分たちの答えを見つけられるようにサポートします。すでに答えがあってそこへ導くというようなことをしないように、とても気をつけています。

チャット③(感想)映画の中で子どもたちがごく自然に、自発的に危機感を感じて動き始めたことがとても印象的でした。子どもたちが動くと大人も不思議と動かされる点も鍵だなと思いました。

佐竹子どもたちの純粋な気持ちは、大人にも伝わっていきます。だからこそ子どもたちに自由にやらせることが重要で、子どもたちが発表する時も「自分たちが何を言いたいのか」を話し合い、内容ではなく何を伝えたいのかを引き出すことで、子どもたち自身の言葉を伝えるようにしています。決められた通りに話すのではなく、子どもたちがどうしたいかがとても大切です。

チャット④(感想)映画の中で子どもたちが議員の方に自信満々に働きかけている姿が衝撃的でした。

佐竹子どもたちが安心して意見を言えるように「意見を言っていいんだよ」と伝え、周りの大人がサポートすることが重要だと思います。議員の方も子どもたちの意見を聞きたいという姿勢を持ってくださっている方が多いですし、子ども扱いはしません。日本だと子ども扱いされてしまうケースもあるので、その辺りはどんどん進化していってほしいと思います。

チャット⑤(質問)メイキングビデオの中で日本語の吹き替えをお願いするための面接を行われていましたが、どういった視点で選ばれていたのですか?

佐竹映画を「子どもたちに観てもらいたい」と考えた時、字幕だけではそのハードルが高いので、絶対に日本語吹き替え版を作りたいと考えていました。そして、やるなら日本のドキュメンタリーにありがちな作られた語り口調ではなく、ニューヨークの子どもたちのエネルギーが伝わる吹き替えにしたいと思っていました。そのためオーディションは、セリフが上手いかどうかだけで選ばず、この活動に興味を持って一緒にやりたいと考えてくれる子どもを選びました。全国から応募を行い、100人来れば十分と考えていたら約600人が集まりました。全員に会いたいと思っていたので、5分ずつですがzoomで面接を行い、その後の選考では直接会うために全国を回りました。

チャット⑥(質問)子どもたちは自主性が強くやらなきゃとなっているというよりは、楽しいことをやっているという雰囲気ですか?

佐竹子どもたちは楽しくないとやらないですね。その一歩目に自分たちのことをきちんと聞いてくれるという感覚を子どもたちが得られるかどうかがあると思います。プログラムの最初に方に子どもたちが地元の人に話を聞きにいく活動があってそこで「自分たちの話をこんなに聞いてもらえるんだ!」と思うとスイッチが入るようで、子どもたちがどんどん話したくなる、発信したくなっていく様子が見られます。

そもそもの量を減らすことが、一番の近道。

進行たくさんの質問や感想が寄せられましたが、佐竹さんが活動するうえでのモチベーションや輪を広げていく方法について教えていただけますか?

佐竹モチベーションを保つのは大変です。私自身、純粋に活動を楽しんでいるうちに子どもに引っ張ってもらっている部分が沢山あります。義務になってしまうと続かないので、大人だけでやるのではなく子どもと一緒にやって欲しいなと思います。そうすると子どもはどんどん進んでいきます。また周りを巻き込んでいく時は、一方的に意見を言うのではなく「一緒に〜しましょう」というLET‘Sな言い方で伝えることがとても大事だと思います。

チャット⑦(質問)マイクロプラスチックについて、私たちがすぐに取り組めることはありますか?

佐竹企業のホームページにはお客様の声を送ることができるフォームが用意されていると思います。そこに「味は好きだけど個包装なのが残念」など思っていることを送るのがいいと思います。そういった声が前年度よりも増えたら、企業側も時代の変化、生活者の意識の変化として関心を持つはずです。そういった身近なことをコツコツ続けることはとても大事だと思います。 また、プラスチックの問題を根本的に解決するには、とにかく使う量を減らすことが重要です。みなさんが分別しリサイクルしているプラスチックの約2/3はマレーシアなどの海外に運んでいることを知っていますか?マレーシアでゴミの調査をしている方は先進国から来たごみを、違法な方法でリサイクルしている企業が沢山あると話していました。他にも、プラスチックごみの背景には様々な問題があります。こうした問題を解決する一番の方法は、そもそもの数を減らすことです。みなさんにも減らすことに注力していただけたら嬉しいです。それには自分だけでなく、学校や、会社などの大きな単位で減らしていけるように働きかけてみてください。

チャット⑧(感想) こども食堂を運営しています。コロナで最近はお弁当配布になり、コストの問題で容器にもできずプラスチックの削減は簡単ではないなと感じています。

佐竹難しいですよね。こども食堂の運営、がんばっていただいてありがとうございます。大変な中でもきっと方法があると思いますよ。子供たちにアイデアを出してもらっては?給食の話でいうと、アメリカは学校が望めば無料で朝も夕方も子どもたちに温かい食事を提供することができます。これは人権の視点によるもので、子どもは平等に教育を受ける権利があり、お腹が空くとそれができないとの考えから教育委員会の給食管理部がその取り組みを支えています。その点、日本は弱者を守る福祉の視点でこども食堂などがボランティアベースで進められていて、同じ行動でも出発点が180度違うところにあるように思います。日本は弱者と強者の間に線があるようにも思えますが、良いところもあって福祉の視点だからこそ、子どもの居場所を提供することができていて、反対にアメリカではご飯は用意するけれど居場所の提供はありません。このふたつの視点を足して2で割れたら、とてもいいなと考えています。

進行たくさんのご質問や感想にお答えいただきありがとうございました。
最後に子どもたちの取り組みについて、大人はどのように関わって欲しいかなど、何かメッセージをいただけますか?

佐竹子どもたちに関わる時に大事なのは、安心して意見を言える場を作ることだと思います。ジャッジメントされると言えなくなってしまうので、出る意見には全て「いいね」と言って聞き、意見を伝えてくれたことに対して「ありがとう」という姿勢でいることが大切です。日本はどうしてもジャッジメントしてしまう傾向があるので、そこだけ気をつけていければ良いと思います。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)