「市民のための環境公開講座」は、市民の皆様と共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。30年目を迎える本年は「認識から行動へー地球の未来を考える9つの視点」を全体テーマとし、さまざまな切り口で地球環境とわたしたちの暮らしのつながりを考えます。
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08 農業と農村の未来を拓く ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の最新動向
11/2 18:00 - 19:30

農業と農村の未来を拓く ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の最新動向

馬上 丈司 氏
馬上 丈司 氏 千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役

水田や畑などの農地において、農業生産と再生可能エネルギー生産を両立させるソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)が世界中で広がっています。農業者の所得向上、農業のエネルギー転換と脱炭素化、そして社会に必要とされる食料とエネルギーの安定供給など、多様な問題の解決に資する新しい農業モデルの最新動向をご紹介します。

講座ダイジェスト

太陽光発電と農業のつながり

今回お話しするソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは、農地の上に太陽パネルを並べ、その下で従来通り農業生産を行う取り組みです。この技術は日本から生まれたもので、再生可能エネルギーのあり方として、また農業のひとつのモデルとして世界で急速に広がっています。私たちの会社も実際にソーラーシェアリングに取り組みながら、農業を営んでいます。そのため代表を務める私は理系の出身だと思われることが多いですが、学部生の頃から政策の研究をしており、大学院では地域におけるエネルギー政策の研究に取り組んできました。博士課程修了後の2012年に千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、今年で11期目になります。事業の他に一般社団法人の理事や地元千葉で行政の委員を務めさせていただいています。本日は理論・政策、ビジネスの現場までを含め多面的に再生可能エネルギーと農業に携わっている視点から最新の動向をお話ししたいと思います。

千葉エコ・エネルギー株式会社では大きく分けて4つの事業を展開しています。全ての事業の軸となるソーラーシェアリング(営農業型太陽光発電)事業では、自社で保有している施設の運営から国内に加えてアジア3カ国での事業化の支援を行っています。どういった場所でどんな設備と農業を組み合わせることができるのかというところから介入し、設備の設置、運用開始後の支援までトータルでサポートします。また研究・調査事業として、事業を事業として終わらせるのではなく、農林水産省や環境省から調査・研究業務を請け、ソーラーシェアリングがどのような技術で発展し地域に実装できるかの研究を進めています。さらに技術開発事業では政府系研究機関や大学・企業との連携によって基礎技術の開発に取り組んでいます。最後に海外事業として、アジアを中心に政策実装を含めた再生可能エネルギーの普及拡大に向けて活動を行なっています。

もともとソーラーシェアリングの事業は、農家の底上げを図り経営を安定させるためにスタートしたものでした。しかし近年エネルギーをめぐる情勢が逼迫したため、再生可能エネルギーの重要性が一気に高まり、太陽光発電の汎用性の高さからソーラーシェアリングは新たな一次産業のモデルとして急速に世界中で拡大され始めました。私たちも2017年あたりから自社で農業に参入し、畑で採れた電気で機械を動かし農業と太陽光発電が共存する仕組みを作っていきました。今では皆さんが食卓で口にされるような野菜の栽培は、ほとんど実績があります。また学生に向けた再生可能エネルギーと農業の教育の場としてソーラーシェアリングを活用しており、ソーラーシェアリングに取り組む意義は農業従事者の所得向上、農地の再生や農業電化の促進、自然資源を再生可能エネルギーにする仕組みの構築、担い手の育成など私たちの未来に深く繋がっています。

打開策としてのソーラーシェアリング

ここからはこうした取り組みが、日本の再生可能エネルギー政策とどのようにリンクしているかについてお話ししたいと思います。ソーラーシェアリングに関する代表的な政策としては、2030年に向けたエネルギー政策目標や2050年に向けたカーボンニュートラル、農林水産省が進めるみどりの食料システム戦略などが挙げられます。全てに共通して言えるのは、エネルギー価格が高騰する中でいかにして自分たちの手でエネルギーを確保するのか、どうやって自国でエネルギーを生み出していくかという課題にまず取り組む必要があるということです。これまでの生活を維持するには、少なくとも2030年までに累計135GWdc~140GWdcの太陽光発電が必要と言われており、これには15兆円ほどの投資が必要になります。さらに2050年には420GWdcの太陽光発電が必要となり、これは今ある街の太陽光パネルが大体6倍になった時に達成できる数字で、40兆円ほどの投資が必要になります。

しかし国から計画を発表する際はこうした数字を「野心的水準」と伝えており、目標としては最低ラインであっても、今の日本が達成するにはとても厳しい状況であることがわかります。また各再生可能エネルギー電源の運転開始期間を考えると、2022年時点で事業化が計画されていないと2030年に間に合わないものもあり、比較的運転開始期間が短い太陽光発電の有用性は日に日に高まっています。その上で国の太陽光発電の導入シナリオを見てみると、今のままでは目標としている数字に到底届かないことがわかります。これは私たちの社会が抱えている深刻な問題であり、大きな変化がない限り今よりさらに厳しい時代が来ることを示しています。

こうした背景により太陽光発電の設置が急がれていることから、近年のソーラーシェアリング市場は盛り上がりをみせていると言えるでしょう。太陽光発電事業用地として農地への注目が高まっているだけでなく、大手企業自ら農地を借り上げ、営農型太陽光発電に参入する事例も増加しています。私の周りでも太陽光発電の工事を担っていた会社が自社で農業に参入している、地域密着型のモデルも目立ち始めています。また国内農地440万haのうち5%を活用できた場合、国内発電電力量の20%を賄うことができ、ソーラーシェアリングがエネルギーと食料の生産基盤を維持・拡大できるのではないかという期待が高まっています。

未来に繋がる再生可能エネルギーを探して

ソーラーシェアリングは、2013年の3月に農林水産省から農地を使い、太陽光パネルを設置して良いという制度が正式に発表されてから、本格的な普及期へと入りました。そこから全国で草の根の取り組みが始まり、その後政府の政策にソーラーシェアリングが導入され、現在私がソーラーシェアリング3.0と呼んでいる、エネルギーコストや物価の上昇、インフレによる社会の変化によってソーラーシェアリングが社会課題を解決するツールとしての普及・拡大が始まりました。3.0の特徴は農業者の所得向上を図る、耕作放棄地や荒廃農地を再生するといった目的から、幅広い社会課題の解決に向けた貢献へと広がりを見せたことだと思います。気候変動への適応策、脱炭素化を進めるひとつの手段、農業の持続可能性を確保し食料安全保障の達成に貢献する有力候補として、太陽光発電が選ばれるようになってきたのです。そのためソーラーシェアリングは今後の食糧安全保障とエネルギー安全保障の中核を担う存在であると考えられます。

諸外国ではどうかというと、日本よりも高い目標を設定し多くの資金を投入しソーラーシェアリングを進めています。残念ながら日本は政策の甘さや投資の不足から、ここ2年間で世界から完全に後れをとっています。韓国では2030年までに1000万kWのソーラーシェアリングを導入する政府計画が進んでおり、イタリアでもグリーンリカバリーの一環として11億ユーロ(約1500億円)を投じ200万kWを導入する動きが進められています。こうした背景には、やはりソーラーシェアリングの農地と共存しながら農業の持続可能性を担保できる、という再生可能エネルギーとしての持続可能性の高さが影響しているでしょう。私たちは無条件に再生可能エネルギーを拡大するのではなく、再生可能エネルギーが本当により良い未来を作るのかという視点を持って手段を見極めていく必要があります。

最後に今から約100年前、今よりも多くの電力会社が存在した時代について触れたいと思います。これは「電気があれば豊かになれる」という確信が電気事業を急速に進め、十分な投資が行われたことに由来して生まれた結果です。私はこのことから、再生可能エネルギーによって将来世代が今よりも豊かになれる社会を作っていこうという強い意志こそが、変化を引き起こすのではないかと考えています。何のために再生可能エネルギーに取り組み、未来に向けて今何をすべきなのかということと向き合うことが、再生可能エネルギーに取り組むうえで最も重要な問いでありメッセージだと思います。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1作物の栽培に太陽の直射光は欠かせないと思いますが、太陽光パネルは日照にどのくらい影響を及ぼしますか?あるいは日照があまり必要のない作物を選んでいるのですか?

回答作物に合わせて設計するというのが私の持っている答えになります。お米であればお米に、葉物であれば葉物を育てるのに適した環境になるように設計するため、パネルに作物を合わせるのではなく、作物に必要な環境へ合わせるというやり方です。同じ作物でも品種や育てる時期によって適した環境は異なるため、専門家としてその辺りを鑑みて設計を行なうことでパネルの影響を最小限に抑えます。

質問2台風による故障はなかったのでしょうか?

回答2019年に千葉県を中心に甚大な被害のあった台風15号では、私たちが携わった設備は問題ありませんでしたが、他の設備では台風によって全壊したものもありました。設計に原因があるのか工事に原因があるのかはわかりませんが、その辺りが整っていない事業所もある一定数存在します。また太陽光パネルの故障の原因で一番対策に困るのは、カラスによる破損です。雨風や雹には耐えられる設計ですが、カラスは真上から石を落とすので防ぐのに苦労しています。

質問3メンテナンスはどのように行われていますか?

回答年に2回専門の業者に点検をお願いしています。方法としてはドローンを飛ばし、光学と赤外線によって得たデータをAIが解析し、異常が出たパネルを人の手で確認し必要な処置を施します。また、最新型の発電所では太陽光パネルを1枚単位で監視しており、出力状況をスマホやタブレットでリアルタイムに確認しています。

質問4今後、太陽光パネルはどのように変化していくと思いますか?

回答家電など家庭で日用使いされるものはどんどん小さくなっていくイメージだと思いますが、産業として使われるものは大型化していくことがほとんどです。大きければ大きいほど出力も大きくなり効率が良いため、太陽光パネルも一枚を大きくしてどれだけ枚数を減らせるかという方向に進化していっています。実際、少し前までは畳一畳分くらいだったパネルが二回り大きくなっています。今後はさらに大型化していくと思います。

もう一つの方向としては、車の屋根や壁面に柔軟に付けられるようにシート型の太陽光パネルが生まれたり、柔軟性の高いものが増えていくと思います。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)