「市民のための環境公開講座」は、市民の皆様と共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。30年目を迎える本年は「認識から行動へー地球の未来を考える9つの視点」を全体テーマとし、さまざまな切り口で地球環境とわたしたちの暮らしのつながりを考えます。
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05 四国一小さな徳島県上勝町から広がるゼロ・ウェイスト
9/21 18:00 - 19:30

四国一小さな徳島県上勝町から広がるゼロ・ウェイスト

大塚 桃奈 氏
大塚 桃奈 氏 株式会社BIG EYE COMPANY Chief Environmental Officer

徳島県上勝町は、2003年に日本の自治体としてはじめて「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、住民による生ごみの堆肥化や中古品のリユース化、45分別に取り組みリサイクル率80%以上を達成しています。 2020年にはゴミステーション、ホテル、オフィスなどを併設した「上勝町ゼロ・ウェイストセンター”WHY”」を新たにオープン。「ごみ」を切り口に循環型社会の在り方やこれからの暮らしについて考えます。

講座ダイジェスト

ごみになるかは私たち次第?

私は大学卒業後に移住した四国で一番小さい町と言われる上勝町にある「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」を運営する、株式会社BIG EYE COMPANYに勤めています。高校3年生の時にファッション留学を経験したきっかけで、ファストファッションの背景にある社会問題や環境汚染に触れたことがきっかけとなり、そこから「サステナビリティ」「フェアトレード」「オーガニック」というキーワードに興味を持ち、勉強していくうちに「ゼロ・ウェイスト」という考え方に出会いました。私自身働きながら「ゼロ・ウェイスト」を学んでいる最中ですが、今日は皆さんと一緒に学びを深められれば光栄です。

ゼロ・ウェイストを掘り下げる前に、まず“ごみ”に目を向けてみましょう。ごみと聞くとネガティブなイメージを抱く方が多いかと思いますが、ごみは特定のものを表す言葉ではなく個人的な好みや状況、社会環境によって生まれるものと言えるかもしれません。その証拠に、時代の変遷とともに私たちのライフスタイルが変わり、それに伴いごみの質や量は変化しているという報告があります。また日本では、戦後すぐに高度経済成長を迎え大量生産・大量消費が当たり前となり廃棄物に関する法律が生まれましたが、近年は「廃棄物マネジメント」から、廃棄物をどう抑制するかを考える「資源マネジメント」へと考え方がシフトしつつあるそうです。

実は私たちは1人1日あたり、約1キロのごみを排出していると言われています。日本はそうして集められたごみの約8割を焼却処分しており、焼却できないごみは埋め立てによって処理しています。しかし日本は国土が狭いため、埋め立てられる容量は残り21年間分しか残っていないと言われており、この状況で物を生産し続けてもいいのかを考えてみる必要があるのではないでしょうか。世界でも人口増加に伴うごみの増加が環境負荷を高めると言われており、公衆衛生や環境汚染への影響とともに真剣に議論すべき問題として扱われており、「ごみ・無駄・浪費の発生抑制=ゼロ・ウェイスト」は、多くのヒントを与えてくれる考え方です。

社会的な要因から自分事に

ここで上勝町のゼロ・ウェイストを紹介する前に、なぜ四国一小さな町がそのような取り組みをすることになったのか簡単にお話しさせていただきます。徳島県上勝町の住人は約1450人、高校もスーパーもコンビニもありません。月に一度発行される町の広報誌は、役場の方が住人の自宅に手渡しで届けているという非常にアットホームな町です。名前の通り勝浦川の上流に位置しており、豊かな自然に囲まれています。800年続く阿波晩茶や、葉っぱをお料理の「つま」として出荷する地域ビジネス「いろどり」が有名です。そんな上勝町は2003年に日本の自治体として初めてゼロ・ウェイスト宣言し、2020年に「2030年までにごみになるものをゼロに」することを再宣言しています。

この宣言の背景には1970年日本では廃棄物の処理及び清掃に関する法律が制定された当時、上勝町にはごみの分別や収集に関するルールがなかったという歴史が存在します。現在「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」がある日比々谷は、当時沢山のごみが傍若無人に捨てられ野焼き場と化していました。その後1997年にゴミステーションが設立、分別制度が導入されたことで少しずつ流れが変わり、2000年に小型焼却炉が閉鎖されたことでごみをごみとして回収するのではなく、資源として回収する動きが強まり宣言へと繋がりました。この宣言の根っこには、町民の共通認識として未来の子どもたちに豊かな自然を受け継ぎたいという思いがあります。

上勝町は社会的な要因によって地域のルールや活動を育み、町民の行動を変えてきました。上勝町には元々「1Q運動」といって町民一人一人が問いを立て、一休さんのように知恵を出し合い、まちづくりを推進していく文化があったこと、加えて町民とのコミュニケーションを「ゼロ・ウェイストアカデミー」と呼ばれるNPO法人が担ってきたことがゼロ・ウェイストの活動を推し進めたと言えます。その結果、13種類45分別やコンポストを利用した生ごみの自家処理、「くるくるショップ」という町の中古品が集まるお店の運営など、他ではない取り組みが町全体に広がりました。

繋がりの中で楽しく整える

上勝町の取り組みとしては、ごみを13種類45分別するという結果だけが注目を集めがちですが、それを実現させているのは町民のたゆまぬ努力です。町も町民の方々に積極的に参加してもらえるよう、分別するとポイントが貯まる仕組みを作ったり、回収されたものがどう利用されたのか分かりやすく表現したり、工夫を凝らしながら活動のモチベーションを生み出そうとしています。その結果、全国平均約1キロと言われる1人1日あたりのごみの排出量を半分に抑え、ごみに使うお金を約60%削減し、全国平均約20%と言われるリサイクル率を約80%達成しました。さらにゼロ・ウェイストがひとつのブランドとなり、ゼロ・ウェイストをコンセプトとしてビールやタオルのブランドが生まれています。

しかし、まだまだ課題はあります。分別は町民の努力に委ねられているため、個人の負担は大きく「私たちだけが頑張らなければいけないのか」という気持ちがあることも事実です。私はこの現状を変えるにはゼロ・ウェイストがひとつの選択肢として社会に定着し、「つかう人・つくる人・すてる人それぞれがごみにしない」という感覚を共有することが大切だと考えています。上勝町ゼロ・ウェイストセンターは、まさにその意識を広めるための公共複合施設です。「WHY」をキーワードにごみを回収する場所やくるくるショップ、交流ホールやオフィス、ゼロ・ウェイストを体験するためのホテルからなぜごみが生まれるのか、なぜゼロ・ウェイストが大切なのかという問いを投げかけています。

私はこれまでの経験から、ゼロ・ウェイストは単にごみを減らす考え方ではなく暮らしを整えるきっかけになるものだと考えるようになりました。ものを捨てない生活環境がごみを減らす一歩であり、その積み重ねがやがて大きな一歩になると信じています。最後にある言葉を紹介します。それは市民のための環境公開講座の9回目にご登壇予定の、佐竹敦子さんの「マイクロプラスチック・ストーリー」というドキュメンタリーで、ごみを減らすためにフォークを持参してきた子どもが放った“The folks make us feel more united(フォークを持ってくることでみんなとの繋がりを感じた)”という言葉です。この言葉を聞いた時、ゼロ・ウェイストの意義=ただごみを減らすのではなく大きなプロセスの中で一緒に取り組む仲間を見つけ、楽しみながらごみや暮らし、社会について考えるということをうまく表現していると感じました。今日をきっかけにみなさんもぜひ、ごみについて暮らしについて楽しく考えていただけると嬉しいです。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1ゼロ・ウェイストの取り組みに反対する人や、世代間のギャップが生まれることはなかったのですか?

回答今でも町の取り組みに反対される方はいます。そのため各集落で説明会などを開きながら、コミュニケーションを重ねて地道に考えや活動を浸透させてきました。上勝に来て特に感じることは、町民は町のルールのもと活動し、ルールによって行動が変化するということです。ルールが新しい社会の仕組みや習慣を作っていく可能性があります。

質問2分別するとポイントが貯まる仕組み「ちりつもポイント制度」のポイントは何に変えることができるのですか?

回答ちりつもポイントは小・中学校で使える体操着や町内で使える商品券、ゼロ・ウェイストブランドの商品などと交換ができます。ゼロ・ウェイスト推進員がセレクトしていて、日常で使える環境に優しい便利なものと交換できるようになっています。

質問3農業従事者の方が出される肥料の袋などはどのように廃棄していますか?

回答農業関連から出るごみの廃棄については、課題も多いです。農協が回収を行う頻度が少ないので、ごみステーションに集まることもあります。袋は泥がついていると焼却することになり、ホースなどの塩化ビニールもリサイクルできず焼却することになるので、これらが循環の流れに乗るような解決策を探しています。

質問4ゼロ・ウェイストセンターでのアイデアや企画はどのようにして生まれているのですか?

回答2003年ゼロ・ウェイスト宣言以降のまちのゼロ・ウェイスト推進に関わるアイディアや企画は、町が民間とともに共創してきた背景があります。例えば上勝町では「ゼロ・ウェイスト推進員」と呼ばれる、住民を代表して町の声を行政に届ける方がいます。現在はゼロ・ウェイストタウン計画が役場で策定されており、その計画の中で各協力事業者が話し合いを行いながら取り組みを進めています。また、2020年に新たに完成したゼロ・ウェイストセンターの立ち上げに関しては、上勝町役場が地域コーディネーターを介して建築やまちづくりコンサル、ブランディングを専門としたプロジェクトチームと育んできた背景があります。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)