パート3 わたしたちにできる選択
地球にやさしい食を探す旅
日 時 | 11/23 土 13:30〜14:45 |
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立命館大学・食マネジメント学部・教授
食材・食品の生産・加工・輸送・販売・調理・廃棄、すべてが地球環境につながっています。生きていくために欠かせない「食」の源である天然資源や地球環境はいま持続可能でしょうか?消費者である私たちが考えるべき「食をめぐる資源循環や地球環境」についてお話しします。地元でとれたものを食べること、旬の食材を食べること、環境負荷の小さい調理で栄養がとれるメニューなど、地球環境と私たちの健康を良好に保つことにつながる道を探っていきましょう。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「人間によって気候システムの温暖化が進み、熱波や大雨などの極端現象を引き起こしていることに疑う余地はない」と発表しています。実際、国内の気象災害も増加傾向にあります。2018年の夏、東日本では猛暑と雨不足の影響で夏の平均気温が上昇し、キャベツの収穫ができなくなり卸値が前年同期比で9割も高騰しました。反対に西日本では記録的な豪雨となり、農地や農産物に大きな被害が及びました。同様に7月の世界の平均気温も16.7℃に上昇しており「史上最も暑い夏」は更新され続けています。その結果ドイツでは大規模な洪水が発生し、北アメリカや南ヨーロッパ、シベリアでは熱波による森林火災、森林消失が起こりました。
こうした世界各国の気象災害は、食料の生産・流通へ大きな影響を及ぼします。国際連合食糧農業機関(FAO)によると亜熱帯地域における小麦の単収は減少しており、平均気温の上昇が2.0℃まで上昇した場合、食料不足に陥る可能性があると考えられています。食料を生産するには土地と水資源が必要不可欠であり、気象災害や気温の上昇によって栽培に適した場所が変化していることが主な原因です。このことから温暖化が進み極端な気候変動が続けば、地域によって収穫量が増える品目があったとしても、世界全体で見たときの収穫量は減少傾向にあると言えるでしょう。
一方で、食は、気候変動の被害者でありながら加害者の側面を持っています。そもそも食料生産は人間による大規模な自然の改変のもとでエネルギーを使い、GHG(Green House Gas,温室効果ガス)を排出しながら人工的に行われてきました。これまで大地や自然の恩恵を受けながら食料を生産し、人間が気候システムに影響を与え続けた結果が今の気候変動につながっているとも考えられます。実際、農業や林業における人為的な土地利用によって排出される,温室効果ガスは世界全体の約2割を占めると言われています。ここへ食料の加工や流通から最終的に消費されるまでの食料システム全体のGHG排出量を加えると、その割合は約4割まで増える可能性があり食料システムと地球環境は深いつながりがあることがわかります。
私たちの“食”が地球環境に与えている負荷を減らすために、環境負荷を「見える化」する流れがあります。その中のひとつであるLCA(ライフサイクルアセスメント)は製品・サービスの生産・流通から廃棄すべての過程で発生する環境負荷を評価する手法です。それぞれの過程でどんな資源を使いそれが環境にどう影響しているのかを「見える化」することで、食料システム全体での削減効果を比較することができます。お米と食パンの興味深い事例があります。日本では地産地消が進められていますが、どんぶりご飯1杯あたりのGHG排出量と、食パン1斤あたりのGHG排出量はほぼ同等の300g- CO ₂eqです。小麦を輸送する際に排出される温室効果ガスより、お米を育てる過程で水田から発生するメタンガス発生量の方が多いことが要因です。
他の食べ物も比べてみましょう。牛ステーキ300gでは7000g- CO ₂eqと桁がひとつ増えます。養殖ブリ300gでは700g- CO ₂eqで、きゅうり1本では70g- CO ₂eqと肉、魚、野菜の順で少なくなることがわかります。しかし同じ肉類でも牛肉より豚肉の排出量が少ないように、魚も種類や養殖か漁業なのかによって数値は変化します。野菜も露地野菜かハウス野菜かで排出量が異なるため、種類だけを見て一概には判断することはできません。食べ物は同じ重さでも、カロリーや栄養素が異なるため比較することが非常に難しいのです。そこで産業連関表という経済統計を利用して、1000円の使い道が温室効果ガスにどう影響するかを比べる方法も見てみましょう。
やはり肉類を食べることで排出される温室効果ガスが多いことがわかります。内食(家庭内調理)・中食(保存食を加熱)・外食といった食べ方の違いによっても、排出量に違いがあることがわかります。なかでも中食の排出量が多い理由は、容器包装プラスチックの影響が関係しています。またこうした環境負荷を削減する対策として、地産地消やモーダルシフト、食品ロス削減、施設栽培省エネ化などがあげられています。これらすべて実行した場合、温室効果ガスの削減に最も効果的な対策は施設栽培省エネ化であり、酸性化物質を減少させる効果的な対策は肥料を減らすことであるということが読み取れます。
食品ロスによる温室効果ガスの排出は、世界全体のGHG排出量の約1割を占めています。国ごとに食品ロスが生産段階と消費段階どちらで起こっているのかを比べると、先進国は開発途上国の約10倍の量を消費段階で食品を廃棄していることがわかります。こうした背景には輸送インフラや加工・保存インフラの違いが大きく、先進国と開発途上国では対照的な現象が起きていると言えます。また国内の食品ロスの原因を見てみると期限切れや食べ残しの数値が高く、3分の1ルールや消費者のこだわりといった習慣が少なからず影響していると考えられます。食品ロスを削減するための対策としては、製造・輸送等の工程改善や生産の工程改善、必要な分だけを届けるマッチング、保存性の向上があげられます。
また食品ロスは水資源とも深い関係があります。地球上ですぐに利用できる淡水のうち約7割は食料生産に使われており、今後人口が増え続けると水不足に陥るのではないかと言われています。私たちが飲んでいる水の量はそれほど多くありませんが、食料を生産するのに1kcalあたりに約1リットルの水を消費しているため、一人当たり毎日約3トン、年間で1240トンの水を使っていることになります。さらにIWMI(国際水管理研究所)の予測によると2050年までに、人類は水不足による食料危機に陥る可能性があると言われています。持続可能な水資源の利用方法を探るためにも、大量の水を使い廃棄している食ロスの問題を解決することが重要です。
これらの問題の根幹である温室効果ガスを削減するためには、食生活そのものを見直す必要があります。人間の活動で排出される温室効果ガスのうち約1〜2割は家畜に由来しているため、完全菜食の「ビーガン」に食生活が変わると、温室効果ガスの排出量は4分の1まで減少すると言われています。近年は植物肉の製品開発も進んでおり、牛肉が植物肉に置き換わると温室効果ガスの排出や水の使用量が減少することがわかっています。地球にやさしい“食”を実現するために、私たちはいつ、どこで、なにを、どのくらい、どのように食べるかを選択することが重要です。そのためにあらゆる方法で環境負荷を「見える化」し、全体への影響を考えながらベストな対策を取っていくことが、今できる最善策と言えるでしょう。
回答生産・加工・流通・消費などといったそれぞれのセクターで調べる必要があるので、厳密に測るのは難しいと思います。企業が自主的に行うとなると、すべての関係する取引先に詳細を聞き足し合わせないといけません。一方、産業連関表といって5年に1度発表される産業間の経済取引の記録からも、ざっくりとした計算で温室効果ガスがどれくらい排出されるかがわかります。しかし計算が複雑なので、その結果を参考に書かれた論文を調べるのがいいと思います。
回答私自身もっと研究を進めたいと思っている内容でもありますが、調理方法よりも何を材料にするかという食材による排出量の違いの方が大きいと感じています。食材を生産しているときの排出量、その組み合わせによって料理の排出量が異なるため、食材の組み合わせや調理方法を含めたメニューの排出量を研究してみたいと思います。
構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)