市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。※各回の講座については、曜日、開催時間が異なりますのでご確認の上お申込みください
オンライン講座 無 料

パート2 企業が取り組むサステナビリティ

カーボンニュートラルな世界を目指す、オールバーズ

日 時 11/10 18:00〜19:15
蓑輪 光浩
蓑輪 光浩

オールバーズ日本法人マーケティング本部長

気候変動は待ったなしです。次の世代に美しい地球を残すためには、気候変動を逆回転させる必要があります。ファッション業界が果たす役割は大きく、私たちは身に付けるものに対して、もっと気をつかう必要があります。米国発ライフスタイルブランド、オールバーズが目指すサステナブルな取り組みについて紹介させてください。ものづくり、サービス、働き方のヒントになればと思います。

講座ダイジェスト

現状に対する違和感から生まれたブランド

オールバーズは元プロサッカー選手のティム・ブラウンと、バイオテクノロジーの専門家であるジョーイ・ズウィリンジャーによってスタートしたスニーカーやアパレルを展開するブランドです。現役選手時代からデザインの勉強に取り組んでいたティムは、スポンサーから支給されるフットウエアの派手なデザインに違和感を抱いていました。引退後、ビジネススクール在学中に企業に対してサステナブルな素材を提案していたジョーイと出会い、意気投合。ふたりは2016年にサンフランシスコでオールバーズを創業しました。世界中でシンプルなデザインとサステナブルな製造工程が注目され、2020年1月に日本上陸し、2021年11月には「米ナスダック」に上場しています。

オールバーズはサンフランシスコを拠点としており、シリコンバレーの風土を色濃く反映しています。例えば会社の入り口ドアはアプリで管理されており、社員はフロンティアスピリットに溢れています。強いリーダーシップとスピード感を持っていることも特徴のひとつで、オープンな姿勢でシンプルなデザインとフットウエアとしての快適性を追求しています。アメリカ合衆国のニュース雑誌「タイム」が「世界一快適なシューズ」と評したことで、シリコンバレーやハリウッド、政財界の方々からの支持も大きく広がりました。2020年1月には日本で初めての店舗が原宿にオープンし、2020年度の店舗での売り上げが世界一を記録しました。皆さんもぜひ店舗に行って、商品だけでなくスタッフとの会話を楽しんでいただけたら光栄です。

現在、私がオールバーズで行っているブランド戦略は過去のナイキやユニクロなどで働いた時の経験を経て培ってきたものです。ブランド戦略には大きく分けて8つのポイントがあります。まず会社の価値観であるミッションを理解することから始めます。次にブランドが解決すべき課題と業界の背景や社会情勢、お客様の行動様式の変化などを認識し、3番目の共感できるビジョンを生み出します。このビジョンは明確な言葉にして、共通認識を持てるようにすることが重要です。そこから具体的な目標を設定し、自分たちのポジションを認識したうえでターゲットとするお客様を明確にします。こうした流れを経て、ようやくブランドとしてのコミュニケーションを設計し、実際に課題へのアクションに取り組んでいきます。その後は実行と検証を繰り返すのが基本的なサイクルです。

本質的な問いから生まれる、工夫の数々

オールバーズを例にしながら、8つのポイントを掘り下げていきます。オールバーズのミッションは「より良いことを、より良い方法で」です。ミッションはブランドが向かうべき方向を示すものなので、迷ったときや問題が起きたときに立ち返って、理想や方向性を再確認する指針、いわば北極星のようなもの。オールバーズは気候変動によって地球環境が壊れることを危惧しているため、環境負荷の低い方法で商品を作ることに注力しています。また課題の背景としてはコロナ禍の影響でカジュアルな服装で仕事をする機会が増え、スニーカーを履く機会も増加しました。その一方ファッション業界は商品を生産する際に多大な温室効果ガスを排出しており、オールバーズはこのサイクルを根本から見直す必要があると感じています。そのため「ビジネスの力で、気候変動を逆転させる」という明確な言葉を打ち出すことで、ビジョンを共有し社会的な取り組みを促進しています。

 

マーケティングとはアートとサイエンスの融合であり、売れる工夫をして売り上げや認知度を高めるための投資だと考えています。目標設定では数字を重視する傾向が強いように感じますが、人の感情に訴えることができるアートも同じように注力すべきだと思います。オールバーズでは「カーボンニュートラル」を2019年には達成しており、販売しているフットウエアやアパレルがどれくらい「カーボンフットプリント(温室効果ガス)」を排出しているかを公開しています。目標を共有し行動様式を変化させるために、お店にポスターを貼ったり塗り絵を用意したりして会話を促す工夫も施しています。また自己認識のフェーズではスポーツと同じように、特徴的なプレーヤーを適切なポジションに配置することが重要です。オールバーズの価値観は①好奇心旺盛、②シンプルにナチュラルに、③強い意志で行動、としており、そこに共感いただけるバランスの良いライフスタイルを目指している方に向けてアプローチしています。

ターゲットを明確にするために社内では理想のお客様のことを「ミューズ」と呼んでいます。チャーリーという名前を付けて人格を設定し、「イギリスのチャーリーはこういう性格です」などと共有言語化することで社内の共通認識を深めています。また伝わり方の設計で大切にしているのは「シンプルにナチュラルに。透明性と説明責任」です。特にお客様と接するスタッフの存在が重要だと考え、現場にいる彼らとの連携を大切にしています。最後のアクションについては、小さなことでもとにかく始めることが大切だと思います。オールバーズでは単に「カーボンフットプリント」を削減しましょうと訴えるだけでなく、商品の包装を削減しCO2を削減するため靴箱に紐を通してバックに出来るような仕掛けを作りました。これはお客様との新たな会話を生み、固定概念を壊せた好例のひとつです。

アクションによって広がるパートナーシップ

SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とあるように、同じ意識や目的を持った人々で連携し地球規模の問題に取り組む必要があります。ビジネスとなると競争原理が働いて企業間で知識や経験を共有することが難しい側面もありますが、課題を解決するには新たしい基準を一緒に作っていくことが重要です。ドイツのアディダス社とはカーボンフットプリントが少なくアスリートも履ける靴づくりで協力しています。またつい先日、徳島の藍染の写真をInstagramで公開したら、世界中から多くのコメントをいただきました。日本の藍染はサステナブルな使い方をしているため、世界から見ても興味・関心が高いです。こういった日本ならではの技術もパートナーシップを築いてコラボレーションしていくことが大切だと思います。

マーケティングは売れる工夫だと話しましたが、お客様の行動様式を変えブランドを好きになっていただくには、当たり前だと思っていることに疑問を持ち改革を起こすことが重要です。「シンプルに、正直に、難しいことを簡単に。そして期待を裏切る」そういったアイデアが共感を生むきっかけになるはずです。社会の動きに目を配りながら、小さなことから始めてみてください。人は愛と情熱によって動かされる生き物だと思うので「この問題を解決したい」という強い気持ちを持って取り組めば、少しずつ同じ考えを持った人が集まってくると思います。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1日本でもサステナビリティという言葉が多くの場面で使用されるようになりました。オールバーズではこの言葉をどう定義していますか。

回答数年したら使われなくなる言葉だと思っています。私は気候変動を逆転させるためのアクションのワーディングと捉えていて、頻繁に使わないようにしています。

質問2情報をオープンにしていることで何か影響はありましたか。

回答サステナビリティはもともと競争ではなく協業の論理が働いていると思います。弊社で発明したサトウキビを使った靴底は、オープンソースにしたことで他社でも採用いただいています。

質問3共通認識を深めるための特別なスタッフトレーニングをされていますか。

回答基礎的なトレーニングは行いますが、細かいマニュアルがあるわけではありません。入社してから社員同士で情報交換や勉強会を開くことで、意識が高まっているのだと思います。営業は現場のスタッフからお客様のことを聞いたりして、マーケティングなどにも現場の声を取り入れるようにしています。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)