自然をつなげる持続可能で豊かな暮らしと住まい
大場 江美氏
株式会社サスティナライフ森の家
代表取締役
大場 江美氏
株式会社サスティナライフ森の家
代表取締役
ほんの少し前までは身近であたり前だった、身の回りの自然素材で造られた日本の木の家。家づくりの素材としてだけでなく生活の一部として、森の樹を余すことなく使った日々の暮らしがありました。
命を育む場である住まいは、樹の命を活かしてこそ。国産木材はもちろん、家づくりの素材それぞれの安全性、トレーサビリティーにも配慮が必要です。
日々の暮らしの中で、住まう人の五感が育まれ、健康で幸せな心豊かな未来がかなうと考えています。
私たちは宮城県で、「地球との共生(循環する暮らしづくり)」を目指し、国産の自然素材を活用した家づくりを行なっています。自分の国の木を使わずに資源の少ない他国から木を仕入れして、人の山も荒らす、自分の山も荒らす状況を改善したいと思い、国産材にこだわっています。また、私自身が子供の頃からいわゆる「アレルギーマーチ」といわれる、各種のアレルギー症状に悩まされ続けてきたこともあります。
日本の国土に対する森の割合は66%で、森林率は世界2位を誇っており、環境的には化学薬品や農薬を使わずに国産材を調達することが可能です。しかし、日本の木材需給量は昭和30年から長い間減少が続き、森や山には木材が溢れているものの、市場には出回っていません。理由は様々ですが、今農業が抱えている問題と同じように、外国産材に追いやられ、行き場を失っている状態です。現在は、国産材は家を建てる材料としてではなく、バイオマス燃料として使用されることも多くなっています。私たちは、グループ会社と連携し、このような仕組みから外れた家づくりを実現しようと、大型の林業機械を使用せず、「ハイブリット林業」と名付けた馬や牛、人と小型機械を活用した方法で100年の森づくりから取り組んでいます。木材の製材過程においても、薬品を使用せず煙で燻し、さらに数ヶ月間、太陽と風に当てることで天然乾燥を行なっています。
回答燻すことで乾燥が早まるとともに煙の成分により虫がなるべく付かないようにすることができます。また、低温で乾燥させることで、精油成分が持っている虫を寄せ付けない成分を残し、木がもともと持っている力を最大限生かすことができます。
回答私たちは、木を最大限使い切ることを大切にしているため、丸太から剥いた皮や、製材の過程で生じた端材、建築材として使うことができない細い木材などを使用しています。
回答私たちの場合は、燃えしろ設計と言って木材がゆっくりと燃える事を利用して、木材の厚みをあらかじめ構造上必要な断面に付加する手法を取っています。木は細かいとすぐに火が付き燃えてしまいますが、大きいと燃えるのに時間がかかるので、十分耐えられるよう設計しています。
私たちが進めている森づくりについて、お話しさせていただきます。まず、森は針葉樹と広葉樹が混ざり合った混交林を目指しています。広葉樹であっても、家づくりの材料として使えるように育てています。そして、伐採した木を角材や板材に加工する製材では、1本1本の木の性質を見ながら、それぞれの木の良さを引き出せるように製材しています。大型林業機械を使うと効率は良いのですが、私たちは地域の雇用を守るためにもチェーンソーを使用するなど人の手で作業することを大切にしています。
セブン‐イレブンさんの「宮城セブンの森」を、私たちの会社グループでもあるNPO法人しんりんで管理させていただいていることから、コンビニのレジに置いてある募金箱を福祉作業所の方に作っていただく活動を行いました。福祉作業所に子供を通わせている保護者の方からは、「普段は部品を作ったり、解体する事が多く、完成品を手がける機会がほとんどないため、今回のような自分たちの生活と接点のある仕事はとてもやりがいがあった」と伝えられ、私もとても嬉しい気持ちになりました。宮城セブンの森から間伐した建築材にならない木材をチップにしてセブンプレミアムののむヨーグルトのパッケージに利用させていただきました。
他にも、株式会社サスティナライフ森の家では、お客様である施主様に家づくりにご参加いただくことを大切にしています。自分の家に使う木を選んで伐って、使ってもらうのですが、お父さんが木を伐る姿をお子さん達が「すごい!」といいながら見ていることもあれば、最近では、お母さんの方が伐る場合も増えています。変形している木も捨てたり、整えたりせず、その形を生かした家具にしています。私たちはこの木で何ができるかなと考えていただくことで、「想いのある家づくり」に参加してもらいたいと考えています。
私たちは、「VESTA(ウェスタ)プロジェクト」と名付けた中山間地域の豊富な森林資源を活用し、地域内のエネルギー循環を目指す取り組みに挑んでいます。このプロジェクトは、木材のカスケード利用=木材の副産物利用、林地残材利用によって建築、家具、再生可能エネルギーという新しい産業を創出することを目的とし、東日本大震災で感じた役割と循環の機能を持った暮らしの大切さが原点になっています。今年11月に、このプロジェクトの一環としてお披露目した「サスティナヴィレッジ鳴子」は、建物や家具、エネルギーの全てを森林資源で作り、私たちが考える暮らしの未来予想図を形にしました。
他にも「VESTAプロジェクト」では、熱と木材の端材によって使用できる木質バイオマス燃料のペレット製造工場やその熱を利用した木材乾燥機の新設、熱と電力を生産し供給するシステムであるCHP(コージェネレーションシステム)を使った熱事業に取り組んでいます。「地球との共生」を念頭に、森づくり→生産製材→家具・エネルギー加工→暮らしの建築→教育・伝えるといったサイクルを作り、過疎化が進む地域や少子高齢化、空き家の問題など、日本全国が抱えている課題をクリアするための一歩になればと思っています。
回答森づくりでは、自分の植えた木の結末を見届けることができません。稲作は、種を蒔いてから1年後に収穫できますが、植林は建築材として使える木材になるまでに60〜70年の時間を有します。そのため、次の世代に自分たちのしたことを引き継いでいくことは、とても重要です。また、森の中にいると、気づく事・学ぶ事が沢山あるため、自然と生きる力が育まれると思います。
回答私は平成3年から、木と森に囲まれた生活を送っています。初めは、家を建てる仕事ではなく製材をする仕事、家づくりの素材づくりをしていました。そこでも国産材を使用していましたが、供給が追いつかなくなり、外国産材を輸入することになりました。港で行われていた害虫を殺すための燻蒸処理を見ていたとき、作業をしていた方に「15分間、燻蒸処理をするシートの中にいたら、命に関わるよ」と言われてショックを受けました。それから、工場で木屑が目や口に入ることに不安を覚え、防カビ剤や、防虫剤、などの農薬を使わない、トレーサビリティにこだわるようになりました。その時から、自分たちが扱う木材が伐採するところを見学に行ったり、安全性を自分の目で確かめるようになりました。
回答このプロジェクトは、木を余すことなく使い切り、エネルギーまで生み出すプロジェクトです。この場所に少しずつ、パン屋さんや絵描きさんなど全国から色んな方に集まっていただけたら嬉しいです。現在入居者も募集していますが、他にも、林泊といって森の中に泊まるツアーやヴィレッジの見学ツアーなどを予定しているので、気になる方はぜひお問い合わせください。今は鳴子にしかないサスティナヴィレッジも全国に展開していきたいと思っていますので、みなさんにご参加いただけたら嬉しいです。
構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)