市民のための環境公開講座 2020

市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。
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パート2 未来へバトンをつなぐ“お買い物”

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11/4 18:30 〜 19:45

私たちの選択が未来を変える
エシカル消費のすすめ

末吉 里花 氏

末吉 里花

一般社団法人エシカル協会
代表理事

講座概要

気候危機、人権侵害、貧困問題、生物多様性の損失など、様々な問題が深刻化していますが、私たちは暮らしを通じてこれらの問題を解決する力の一端を担うことができます。そのひとつの有効な手段がエシカル消費(倫理的消費)であり、SDGs達成のためにも注目されています。エシカルの基礎的な知識だけでなく、市民、企業、地域として何ができるのか、日本や世界の事例なども含めてお伝えいたします。共に一歩を踏み出しましょう!

講座ダイジェスト

エシカルとこれからの未来

一般的に、エシカルとは「法的な縛りがなくても、多くの人が正しいと思っていること。本来、人間が持つ良心から発生した社会的な規範」を意味します。言葉にすると少し難しく感じますが、みなさんは「正しい」という言葉の意味を考えたことはありますか?私は、正しいという漢字は「一」に「止」と書いて、「この線で止まれ」という意味があると知ってから、世界が抱えている様々な問題は、この線となる「規範」や「判断基準」が明確でないことが原因で起こっているのではないかと考えるようになりました。エシカルを広める上で、何が正しいのかという規範をひとりひとりが持つことは、とても重要です。今日の講座を聞きながら、ぜひ自身の内的規範についても考えていただければと思います。

私たちエシカル協会は、エシカルを「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」と定義し、2015年から活動しています。私たちの使命は「エシカルの本質について自ら考え、行動し、変化を起こす人々を育み、そうした人々と共に、エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなっている持続可能な世界の実現を目指す」ことです。基礎知識から最新情報まで学ぶことのできるエシカル・コンシェルジュ講座や講演活動などを通し、エシカルについて知る機会や交流の場を創出したり、消費者がエシカルな選択ができるよう社会や企業などに働きかけたりすることが活動の基盤となっています。

このような活動を始めてから約5年。世界は、少しずつですが変化しています。2015年には、SDGsが採決され17の持続可能な開発目標が定められました。2019年には、ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットでの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんによるスピーチが注目を集めました。しかし、実際に社会の仕組みを構築し、人々の価値観を変えることは容易ではありません。私自身、TBS系「世界ふしぎ発見!」というテレビ番組の取材で、アフリカ・キリマンジャロに登頂した際、頂上にあるはずの氷河が温暖化で縮小し、地域の人々の生活に影響を与えている現実を目にするまで、自分の生活行動が地球環境に影響を与えていることの重大さを理解していませんでした。今回は、自分たちが問題に加担しているかもしれない事例のひとつ、人権侵害・児童労働についてお話しさせていただきますが、同時に人間の活動と経済活動の持続可能性は、あくまで健全な地球環境によって支えられることも、お伝えできればと思います。

私たちの消費の過去・未来

みなさんは、世界ではどれくらいの子供たちが働いていると思いますか?実は、10人に1人の子供たちが労働者として働いているのです。日本に住む私たちも、知らず知らずのうちに、途上国の子供たちが作ったものを消費しているかもしれません。例えば、チョコレート。カカオ豆を育てている西アフリカの農園では、本来なら学校に通うはずの子供達が当たり前のように働いています。洋服の原料であるコットン(綿)はどうでしょう。綿花畑は、アメリカだけでなく、途上国の小規模農家さんたちによって作られています。そして、綿花を育てるために使用する農薬や殺虫剤によって、農家で働く労働者や家族、その周辺に住む人たちが1年間で2万人〜4万人も亡くなっていると言われています。そのコットンは多くは先進国に住む私たちが使っているものです。

2013年には、バングラデシュの首都ダッカ近郊の縫製工場が入った商業ビルが崩落し、1,100人以上の従業員が亡くなる大事故が起きました。働いていたのは主に19〜21歳の女性で、労働時間は16時間以上、時給は12〜13円ほどだったと言われています。若者に人気のファストファッションや有名なアパレルブランドの洋服も作っていた工場です。もしかしたら、私たちもそこで作られた洋服を身につけていたかもしれません。私たちは自分の消費活動が、こうした途上国の問題と繋がっていることを知る責任があります。しかし、大量生産・大量消費が当たり前の現代では、ものが作られる現場を知ることが難しく、消費者と生産現場の問題の間には大きな壁が存在してことも事実です。

そんな中、エシカル消費という考え方は、これらの問題を解決に導く手段のひとつになり得ます。どんな人も消費活動を通して世界と繋がっている時代だからこそ、エシカルな意識を持ってものを購入をすることで、世界が抱える問題を解決する一端を担うことができるのです。また、エシカル消費と言っても、その内容は再生可能エネルギーの利用やフェアトレード製品の購入、地産地消など多岐に渡ります。認証やラベルマークがついた商品を購入することも手段のひとつ。お金を使わずに7Rと言われるRethink、Refuse、Reduce、Repair、Reuse、Repurpose、Recycleを暮らしの中で実践することもひとつ。それぞれが置かれた立場に応じて、環境や社会、地域に配慮したエシカル消費をぜひ実践してみてください。

問題の一部になるか、解決の一端を担うか

昨年の夏、私はエシカル消費が日本に比べて25年は進んでいると言われている、スウェーデンのマルメ市に行ってきました。そこでは面白い取り組みが沢山行われていました。電車は100%風力発電、バスにはガソリンの代わりにバイオガスが使用されており、市民の方々は当たり前のように生ゴミのことを資源と呼んでいました。環境ラベルが至る所に表示されており、「エシカル消費をしてください」と説得しなくても、スウェーデンの社会システム自体が持続可能な社会をもとに作られていると感じました。では、日本に住む私たちはどうしたら良いのでしょうか?

博報堂がおこなった「生活者のサステナブル行動調査」によると、約6000人のうち7〜8割の人がエシカル商品に対して購入意向があるにも関わらず、実際に行動を起こしたかどうかの購買実態ではその数字が4割程度であったとの結果が報告されています。つまり、意向と購買の間には大きなギャップがあり、この差を埋めることがエシカル消費を広める鍵になるということです。私たちエシカル協会が実施しているアンケートでは、どれがエシカルな商品かわからないことが、エシカル消費を妨げている大きな要因のひとつであるということがわかっています。企業は、商品の背景についての情報を積極的に開示する必要があり、私たち消費者はそれを求めているという意思表示をする必要があります。すでに小学校では、SDGsの授業が開始されており、来年の中学校、再来年の高等学校では、エシカル消費が家庭科だけでなく社会科や国語など横断的に組み込まれることが決まっています。私たちは、こうした教育を受ける若い世代のためにも、新しい社会の仕組みを築く必要があります。

最後に、私がパタゴニアの創設者イヴォン・シュイナードさんに頂いた言葉を紹介します。「もし、あなたが今活動を辞めてしまったら、あなたは問題の一部になる。でも、もし今あなたが頑張って活動を続けていれば、あなたは解決の一部になれる。人は何を思うか言うかではなく、何をするかでその価値が決まる」。
今の社会構造では、ただ暮らしているだけで、私たちは地球の問題に加担していることになります。でもそれは反対に、一歩踏み出せば問題解決の一部にもなれるということです。私は、1人の100歩より100人の1歩が世界を変える力を持っていると思っています。(「エシカル」の頭文字を取って)「いきょうをっかりんがえ」、その積み重ねによって、みなさんと社会を変えていきたいと思っています。

質問1エシカル消費に関心がない人たちに対し、どうアプローチするかが課題だと感じています。何か良い方法はありますか?

回答私もその答えが知りたいと思うほど、重要な課題だと感じています。本来であれば、スウェーデンのように社会のシステムとして、関心がない人たちもエシカルな行動が取れる仕組みを確立することが求められるのかもしれません。しかし、それには企業や国など大きな部分での変化が必要であり、そこを変えるのはやはり市民の声や行動です。私たちが声を発信し続けることが、重要なのではないでしょうか。

質問2人権侵害・児童労働によって作られた商品を買わないことによって、途上国から仕事を奪い、さらなる貧困を生んでしまう心配はありませんか?

回答人権侵害・児童労働の問題の解決は、職を奪うことが目的ではなく、雇い主や企業に対して工場や職場環境の改善を求めることが目的です。働いている人を単に解雇するのではなく、労働環境を整え、公正な移行を企業に取り組んでもらうことが重要です。また、児童労働は、その親に雇用がないことが原因となっている場合がほとんどのため、親に対する働きかけが同時に行われています。

質問3法制度やシステムの改善と同時に、改革の立役者となる人を育てていくことが重要ではないでしょうか?

回答その通りです。日本は他の先進国に比べて社会運動が活発ではなく、NPOやNGOなどの民間団体の影響力も十分ではありません。市民である私たちが積極的に声をあげ、市民社会的な側面を定着化させることで、市民の声が物事を変えるきっかけとなる社会を構築していく必要があると感じています。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)