パーマカルチャー
共生型未来へのパラダイムシフト
ソーヤー海氏
共生革命家
ソーヤー海氏
共生革命家
なぜ、私たちは人間と自然を分けてしまうのか?自然の一部ではなかったら、人間は何者なのか?この時代に生きることとはどういうことなのか?そんな問いを見つめながら、「パーマカルチャー」というサステナビリティーを超えたregenerative(再生型)デザインへの冒険に出ます。人類が直面している問題の症状(気候変動など)ではなく、根元(経済システムや信念など)について考えながら、循環する豊かな暮らしと社会へのパラダイムシフトについて話します。
僕の願いは、今の地球の状況や社会、暮らしについてみなさんと一緒に考え、より豊かな世界を共につくっていくことです。「生きるって、どういうことなんだろう?」という大きなテーマをもとに、みなさんと意識の冒険をしながら、僕自身がどんな経験をしてどんなことを考えてきたのか、地球市民のひとりとしてそのタネをご紹介させていただきたいと思います。
僕はアメリカと日本のハーフで、子供の頃から2つの国を行ったり来たりしていました。ちょうど大学生の時、アフガニスタンやイラクで戦争が始まり、自分の住んでいる国がこれから戦争に行くということを体験し、「なんで未だに、戦争をしているのだろう」と考え始めました。その流れで、「環境を破壊せずとも野菜は育つのに、なぜ自分の買っている商品のほとんどはオーガニックじゃないのだろう」、「テストで良い点を取るために、体にむちを打って頑張らないといけないのはなぜだろう」などと考え、今の社会が本当に人間にとってベストなのかと疑問を持つようになりました。そして、このまま先進国に居ても答えは見つからないと思い、コスタリカのジャングルへ。これが僕のターニングポイントです。ジャングルには猿をはじめ沢山の動物が居て、自然があって、それまで人間を中心に形成されていた僕自身のコミュニティの定義は大きく変化しました。太陽の光で料理をすることで、地球、そしてその先の宇宙と自分のつながりを感じたり、ジャングルの中で排泄し、それが土に還り別の生き物の栄養になるというエネルギーの循環を目にしたりと、都会では気付けなかった地球の自然の「豊かさ」に衝撃を受ける毎日でした。
今もこうして呼吸をしていると、自然と森や海のプランクトンが生産した酸素が自分たちの体の中に入ってきますよね。これってすごいことで、僕たちは息をしているだけで他の生物とつながっていて、そのつながりから孤立することはありません。コスタリカでのジャングル生活が、地球上の全てはつながっていて、互いに生かされているということを僕に思い知らせてくれました。そんな中、またしても疑問が生まれます。「なんで人間だけが、お金がないと生きていけないのだろう。お金も経済も人間がつくったものなのに、なぜこんなにも多くの人が悩まされているのだろう」。ゴミも同じです。人間だけがゴミを出しています。他の動物のように、自然の一部として存在していれば、お金の問題にもゴミの問題にも直面することはありません。もしかすると、僕たち人間は、自分で考えだした技術や仕組みから、新たな答えのない問題を生み出し、それに苦しめられているのかもしれません。そして僕は、今日のタイトルにもあるパーマカルチャーという世界観に興味を持ち始めます。
パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業や永続可能な文化を意味します。即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法で、僕は「活かし合う関係性のデザイン」と捉えています。パーマカルチャーには、「地球を大切に・人を大切に・豊かさを分かち合う」という倫理があります。現代のような金融資本主義ではなく酸素や水をベースにした自然資本、消費ではなく再生を目的とした、地球市民の誰もが実践できることが特徴です。僕は「懐かしい未来」という言葉が好きで、パーマカルチャーは新しく特別なものではなく、自然と共に生きていた昔の暮らし方を現代に合わせてアレンジしたものだと考えています。
僕は、このパーマカルチャーをより深く学ぶために、ジャングルで過ごした後アメリカのワシントン州オーカス島に行きました。そこでは、12人の研修生と3家族が生活していて、沢山の食べ物に囲まれ、お金がなくても自由で豊かで、安心できる、まるで子供が楽園で遊んでいるような時間が流れていました。僕もこの文化を広めたいと思い、日本に帰ってきてから千葉県のいすみ市に「パーマカルチャーと平和道場」という、自然とつながり、コミュニティとして自分の手で暮らしをつくる技術を学べる暮らしの学校をつくりました。
回答とても大事な質問で、この時間だけではうまく伝えきれませんが、大事なのはお金への依存を減らすことだと思います。お金への依存を減らし、自分の命のエネルギーをやりたいことに費やす仕組みを築いていくことです。パーマカルチャーの良いところは、ベースに倫理があってもこうしないといけないという決まり事はないことです。無理をせず、できることから取り組んでいくのが良いと思います。
回答いすみ市は、パーマカルチャーのような暮らしをしている人が何世代も前からいて、そうした土壌が育まれていると思います。いすみ市の学校の給食は地産地消の有機無農薬米ですが、それも時間をかけて働きかけた方々がいたからこそ生まれた結果です。いすみ市は、個人ではなく地域で、お金や自然が循環する仕組みをつくろうとしているように感じています。
SMART CSOs LABという持続可能な社会と平和な世の中をつくるためのヨーロッパのシンクタンクは、今社会で同時に起きている「生態系の危機・社会と経済の危機・精神の危機・民主主義の危機」の根源的な原因が、資本主義が人間のために機能していないことではないかと発表しています。僕自身もこの考え方がしっくりきていて、資本主義のあり方を根本的に考え直す必要性を感じています。大変な取り組みです。そこで希望になるのは、3.5%の法則です。ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスさんの調査によると、非暴力の抗議運動に参加する人が全体の3.5%になると社会が変わるという法則です。他にも、グローバリゼーションが人と環境にもたらす影響を語った第一人者、スウェーデンのヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんによるローカル経済の大切さに関する本や、仏教哲学者で社会活動家、アメリカのジョアンナ・メーシーさんによる大転換をもたらす3つのプローチなど、複合的に起きている危機を変えるためのヒントがあるので興味のある方はぜひ調べてみてください。
僕は将来、エコバーシティといって生態系を中心に置いた大学をつくりたいという大きな夢を持っています。何から始めて良いかわからない方も、まずは、タネを植えてみることから始めてみてください。それと、コンポスト。堆肥のある暮らしなどは都会でも可能です。パーマカルチャーの場に行き、循環の中での暮らす人達を見ると世界観が変わるかもしれません。今は「恐れ」によって動かされる時代ですが、エネルギーは「愛」に動かされることが大切です。僕も地球が大好きだし、人間の可能性を信じているからもっと素敵な世界をつくりたいと思って活動しています。それは健康にも良いし、パワーも強いので、みなさんにも愛を持って自分の豊かさに気づき、命を生かす方法を考えて欲しいと思っています。
回答僕は便利という言葉の定義を変える必要があると思っています。そもそも便利とは誰が定義した、誰のための言葉なのでしょうか。今は使い捨ての生活が推進されていますが、そのゴミを扱うのはとても労力がかかります。気候変動の問題も80年代から言われてきていますが、2020年になっても悪化しているのは技術の問題ではないと思います。もしかすると、資本主義を守りながら解決しようとするのは、無理があるのかもしれません。これまで経済の領域で定義されてきた言葉を、自分たちがつくる側になる。新しい未来を築くには、言葉の定義を変え、意識を変えることがすごく大事だと思います。
回答得意というより、それが流行ってしまったのだと思います。コスタリカのジャングルも、経済がなかったわけではありません。その中心がお金ではなく、エネルギーでした。私たちが「経済」と呼んでいる経済は、貨幣経済のことで、色々ある中のひとつの経済のあり方でしかありません。僕の仲間の活動家は、「みんなが大事にされる社会をつくるためには、必要な人に資源が届く経済、母親が子供に母乳をあげるような経済でなければみんなが豊には暮らせない」と話していました。農耕の歴史と共に所有の概念が広まり、資源を貯められる人が権力を持つようになりましたが、それは多くの人が不幸になる経済です。まさに今は、物質的にも金融的にもとても豊かなはずなのに、多くの人が苦しんでいます。これは資源の問題ではなく、デザインの問題なのではないでしょうか。
構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)