市民のための環境公開講座 2020

市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。
全9回 オンライン講座 無料

パート1 生きものと気候変動

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9/23 18:30 〜 19:45

真のパラダイムシフトで地球環境を守ろう!

堅達 京子 氏

堅達 京子

NHKエンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー

講座概要

新型コロナウイルス は、私たちが野生の生きものたちの住処を破壊すれば、人類にも大きなリスクだと警鐘を鳴らしています。永久凍土の融解による未知のウイルスの出現も心配です。気候変動を食い止め、生物多様性を守るには、脱炭素経済を目指すグリーンリカバリーを徹底し、今こそ真のパラダイムシフトを実現する必要があります。私たち市民にできることは何なのか、地球温暖化防止や脱プラスチックの最新の知見を交えて伝えます。

講座ダイジェスト

絡み合う新型コロナウイルスと環境問題

私はNHKのディレクターからプロデューサーとなって10年あまり、環境問題をライフワークとして沢山の番組を制作してきました。2010年にCOP10が名古屋で開催された時は、NHKの環境キャンペーンの責任者を務め『SAVE THE FUTURE』という特別番組を通してみなさまに環境問題をお伝えしました。今年は、そのCOP10からちょうど10年、中国で2030年の生物多様性の新目標を決める大事な年です。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックにより、残念ながら会議は延期になりました。

私は、新型コロナウイルスと環境問題には大きな関わりがあると考えています。今回の新型コロナウイルスは、「コウモリを起源とし野生動物を介して人間へと感染した」と言われているように、人間の森林開発によって野生動物と人が暮らす地域の境界線は失われつつあります。過去には、森林伐採によってウイルスが拡大した事例だけでなく、温暖化により永久凍土が溶けて3万年前のウイルスが大気中に放出された事例もあります。2019年、研究成果を基に政策提言をおこなう政府間組織IPBESによると「人類の活動によって約100万種の動植物が絶滅危機にさらされている」との発表もありました。

今年は北極圏のシベリアで38℃を記録し、温暖化がひとつの原因だとされる熱波や干ばつによる森林火災が相次いでいます。9月にはカリフォルニアで史上最大の山火事も起きました。森林火災や山火事は、生き物やその住処が失われるだけでなく、健康被害や排出されるCO2による更なる温暖化も引き起こします。インドネシアのスマトラ島では、1989年には58%あった原生林が2016年には24%まで減少、その原因はパーム油を生産するための農園の開発やコピー用紙の原料を採るためのアカシヤのプランテーションなどです。このパーム油はお菓子や化粧品などに幅広く利用されているため、私たちの生活とも深く繋がっています。今回、新型コロナウイルスの出現により経験したように、大量生産・大量消費型の経済を優先し続ければ、隠れていた社会の歪みや格差が浮き彫りになり経済活動は立ち行かなくなるでしょう。これ以上環境に負荷をかけないために、私たちはこの問題と真剣に向き合う必要があります。

後半のお話に入る前に、いただいた質問に答えていきましょう。

質問1山火事によって生き物の命が奪われる以外に、地球にはどういったダメージがありますか?

回答森に住む生き物だけでなく、人間も山火事によって大量に発生するすすやガスによって喘息を起こし、それが原因で死に至ることもあります。また、CO2を吸収していた森林が失われると水蒸気をキープできず雲ができにくくなるため、それにより雨が降らなくなり、より一層乾燥化が加速します。実際、アマゾンでは乾燥化が進み砂漠になってしまうというシミュレーションも存在します。

質問2グリーンウォッシュの具体的な事例を教えてください。また、海外に比べて日本ではグリーンウォッシュに対する報道が少ないように感じていますが、理由はあるのでしょうか?

回答ライフサイクルアセスメントという製品やサービスの生産から廃棄までの環境負荷を定量的に評価する手法があります。調べればすぐに情報がでてくるので、ひとりひとりがリテラシーを持って判断していく必要があるでしょう。また、日本のメディアは環境問題に対する情報量や知識が不十分なところがあり、報道が少ないのだと思います。一部には良い報道もありますが、自戒の念を込めて反省しています。

質問3森林を再生させるために取り組んでいる、具体的な事例はありますか?

回答色々な事例がありますが、特に中国の活動が目立ちます。中国はトップダウンで一度砂漠化してしまった地域に木を植える活動を積極的に取り組んでいます。また、インドネシアでは国を挙げて復興庁を設立し、元の森に戻す活動をおこなっています。

パラダイムシフトとグリーンリカバリー

ここからは、持続可能な経済活動へとパラダイムシフトするために重要なキーワードとなるグリーンリカバリーという考え方について触れたいと思います。まず、グリーンリカバリーとは、新型コロナウイルス感染拡大からの経済復興にあたり、気候変動を抑え、生態系を守りながら立て直そうとする考え方で、ヨーロッパでは「次世代EU」の位置付けで約90兆円規模の投資がおこなわれようとしている政策のひとつです。世界中がグリーンリカバリーを進めようとしている理由は、産業革命以前からの世界平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えないと、ティッピングポイントと呼ばれる、温暖化が暴走してしまい後戻りできなくなる臨界点を超える恐れがあるからです。ここで何より重要なのは、CO2を排出しない再生可能エネルギーへの移行ですが、加えてサーキュラーエコノミーと呼ばれる循環型経済への転換が重要視されています。

プラスチックから考える循環型経済

最後に、循環経済を考える上で特に問題視されている、プラスチックについてお話します。私たちの生活でも至る所に使用されているプラスチックですが、2050年には海洋プラスチックの総量が海に住む魚の総量を超えると考えられています。その中でも5mm以下のマイクロプラスチックは、自然界から回収することが難しいうえに、マイクロプラスチックが運び屋となって生物が海洋中の汚染物質を吸収してしまう可能性があり、マイクロプラスチックを食べたプランクトンや魚などから食物連鎖の過程を通して起こる健康被害が心配されています。また、ハワイ大学の研究によると、海に放置されたプラスチックが太陽光などにより劣化すると、メタンやエチレンといった温室効果ガスを放出することがわかりました。日本ではあまり認識されていませんが、プラスチック問題は地球温暖化や気候危機と密接に結びついています。

新型コロナウイルスの影響で、不織布マスクやお弁当の利用が増えていますが、これらも立派な使い捨てプラスチックです。感染が心配される医療現場などでは、どうしても使い捨てプラスチックよる製品を使用しなくてはいけないシーンがあるため、私たちは日常的に使用している使い捨てプラスチックを真っ先に減らしていく必要があります。日本ではようやくレジ袋の有料化が始まりましたが、世界はその1歩も2歩も先に進んでおり、世界的な飲料メーカーやIT企業、CO2の排出量が石油業界に次いで2位のファッション業界も大きく変わろうとしています。ESG投資が盛んになり、環境を守ろうとする企業にお金が流れや評価が動いていることも事実です。大切なのは、私たち消費者が環境問題に前向きに挑戦する企業を応援し、選択することです。私は、今の状況をサステナブルな生き方に転換するチャンスと捉え、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」という世界を実現すべきだと考えています。

それでは最後にいただいた質問に答えて、この講座を終了とさせていただきます。

質問4パラダイムシフトを起こすためには、何から始めればいいのでしょうか?

回答現状に甘んじることなく、おかしいと思ったことに声をあげることが大切です。私自身のことでお話しすれば、NHKで「なぜもっとサステナブルな報道が増えないのですか?」と声をあげてひとりでも仲間を増やす。こうした取り組みをみんなが行えば、会社の中でもそういった意識が広がっていくはずです。また、誰かが起こしている運動に賛成して署名をしたり、自分の属している自治体に働きかけたりするのも大きな一歩ですよね。知恵と工夫で、最初の一歩を踏みだす方法は沢山あると思います。

質問5気候変動が進み台風などの自然災害に発展した場合、水量調節のために海に水を流すことが増えると思います。その時の連動被害について教えてください。

回答洪水によって町にあったプラスチックごみが海に流されてしまうというのは、十分に考えられます。私たちはそういうことが起こることを前提に、自然災害によるリスクと向き合っていかなければなりません。私たちは、環境問題が繋がり合う大変な時代に生きていると思います。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)