滝沢 秀一氏 芸人
伝える・つなげる仕事
マシンガンズ滝沢と考えるゴミ問題
講座概要
お笑い芸人とごみ収集会社の正社員、二足のわらじを履き、ゴミ収集の現場で働いていると「ゴミ出しから分かる『ライフスタイル』」、『食品ロス問題』などさまざまな問題が見えてきます。
例えば、引っ越しの内見ではごみ集積場をチェックすることも大切です。
ゴミ問題を今までとは少し違った見方で、クイズなどを混ぜながらお話いたします。
講座ダイジェスト
ゴミに映る、ひとのこころ
僕は21年間芸人をやっています。7年前の36歳の時、妻が妊娠したことをきっかけに、ゴミ清掃員の仕事を始めました。当時、アルバイト雑誌には、35歳の年齢制限が設けられた募集がほとんどで、年齢不問と書かれた仕事にも9社連続で落ちてしまったんです。そこで、先に芸人を辞めた知り合いに連絡を取り、紹介してもらったのがゴミ清掃員の仕事です。今は、ゴミ清掃員の仕事を始めて7年目になりますが、自分がゴミ清掃員の仕事をして、ツイッターで呟いていたゴミ清掃員あるあるが事務所の先輩である有吉さんにリツートされ、多くの人に広まり結果として本を出すことになり、その本の帯を伊集院光さんに書いていただけるようになるなんて、思ってもみませんでした。人生は何が起こるか、本当にわからないものです。
ゴミ清掃員の仕事は、主にゴミ置場に置かれたゴミの回収と分別になります。朝6時半に出勤し、8時から回収を開始、その日のゴミの量にもよりますが大体16時前後に業務が終わります。僕は、同じ地域、同じ車、同じゴミを回収する常勤とは異なり、毎日違う地域で可燃ゴミ、不燃ゴミ、資源、古紙といった日によって異なる種類のゴミを回収する、非常勤という形で働いているため、色んな地域の色んなゴミ、ゴミの出し方を目にします。次第に高所得の住宅地では、一度に出すゴミの量やタバコの吸い殻が少なく、健康グッズや高級美容液のゴミが目立つのに対し、低所得の住宅地ではゴミの量もタバコの吸い殻も多く、なかでも栄養ドリンクや発泡酒のゴミが多くみられることに気づきました。
低所得の住宅地では、よく100円ショップで購入したものが捨てられていますが、その中には新品同様のものも多く、これでは100円ショップを通してゴミ箱にお金を投げ入れているのと同じです。また、分別をせずにゴミを出しているお店は6年以内に潰れる確率が高く、お店の意識や店内の状況がゴミの出し方にあらわれているようにも思えます。ゴミは生活の縮図です。皆さんも自分の捨てたゴミを見てみると、自分がどういう生活状況なのか、無駄なものはなんなのかわかることがあるかもしれません。
再利用できる資源、灰になるゴミ
皆さんは、びんや缶、ペットボトルや古紙、プラスチック製容器包装のことを資源ゴミと呼ばず、資源と呼ぶことを知っていますか?僕は、ゴミ清掃員になって「資源なんだからゴミじゃないよ」と注意されるまで、知りませんでした。そうした資源の分別には、自治体ごとに細かいルールがあって、正しく分別が出来ていない場合はリサイクルが出来なくなってしまいます。例えば、同じ古紙という括りでもダンボールや雑誌、雑がみなどは種類ごとに分けてそれぞれのリサイクル先に運ぶので、ダンボール箱の中に雑がみや雑誌が一緒になって捨てられていると、ゴミ清掃員が手作業で分けなくてはなりません。
また、人によってはゴミ集積所をゴミ箱と勘違いしている人もいます。住民の間で揉めにくいという理由から、ゴミの集積場は川の近くに作られることが多いのですが、網の上に置かれたゴミは風に吹かれて川へ飛び、最終的には海にまで流されてしまいます。実際、荒川クリーンエンド・フォーラムという事業団体は、2018年の1年間で荒川から約4万本のペットボトルを拾いあげました。日本は資源のリサイクル率が高いと言われていますが、回収出来ていないゴミはどこにいって、どうなっているのかわかりません。僕は、まず何が違反なのかという分別の理解を広め、ひとりひとりがゴミをゴミとして処理する責任を負っていくことが大切だと考えています。
そして、ここに来ている皆さんには、ゴミの量を減らすことをお願いしたいです。例えば、雑がみ。紙類を可燃ゴミから抜くだけで、ゴミの量はだいぶ削減されます。最近では、プラスチックも資源として回収できる地域が増えてきました。こうした資源を分別せずに可燃ゴミとして出してしまっては、全て灰のゴミになってしまいます。今日、皆さんとはこのような形でせっかく知り合ったので、僕が回収しているんだったらもうちょっと気をつけてみようかな、なんて思っていただけたら嬉しいです。
見えないものに対する、思いやり
ゴミは維持するだけで、お金がかかります。東京の中央防波堤最終埋立処分場も、あと50年で埋まってしまうと言われていますが、処分場で灰を固めて埋めるにも、下水に流れる水を綺麗にするにも、膨大なお金がかかっています。その中でも一番もったいないと感じるのが、食品ロスです。スーパー3軒から出る食品の残り物を毎日集めているフードバンクには、ものすごい量の食品ロスが集まっていました。なかには、他県から運ばれてきた果物やお米、国をまたいで輸入された魚介や野菜もあって、わざわざ運んできたものをこれほどの量処分することになるのは、やっぱり異常だと思います。
僕は、目に見えないものに対する思いやりを持っている人が、成熟した大人だと思います。ひとつのものを作り出す過程には、色んな人が色んな思いで関わっていて、心ないことをすれば誰かが悲しむかもしれない。その視点を持たずに、人やものに対する傲慢な態度を取ることが、様々な問題の根底にあると思います、もしかすると、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を復習するだけではなく、4つ目のRにリスペクトを加えることが、今の私たちに一番必要なことかもしれません。
アメリカには、『愛している物をなら命なくなるまで使う』ということを意味するラストロングという思想があります。私たち日本人も、小さい頃からものを大事にしろと当たり前に言われて、その心を育ててきたはずです。時代に合わせて、法律や制度が変わっていくことももちろん大切ですが、人に管理されなくても、自分たちの意識で自分たちの行動、そして環境を変えていくことが出来ると、僕は思っています。
構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)/写真:廣瀬真也(spread)