講師紹介

一瀬 寿幸 氏

環境庁 大気保全局 広域大気管理室室長

1.オゾン層破壊の現状と今後の見通し

(1)オゾン層とは
大気中のオゾンは、その約90%が地上から10〜50km上空の成層圏に集まっている。
この成層圏オゾンを「オゾン層」と呼ぶ。
「オゾン層」は、太陽光に含まれる紫外線のうち有害なもの(UV−B)の大部分を吸収し、私たち生物を守っている。
このオゾン層が、我々が日常生活で使用している多くの生活機器に含まれるフロン(クロロフルオロカーボン=CFC)等の物質によって破壊され、地上に到達する有害紫外線が増加する。
これがオゾン層破壊による環境問題である。

オゾン層破壊のメカニズムは、例えば、大気中へ放出され上空に達したCFCが光化学反応で分解し、生じた塩素原子がオゾン分子と反応して一酸化塩素を作り、オゾン層を壊す、というものである。
オゾン層におけるオゾンの量が1%減少すると、地上に降り注ぐ有害紫外線(UV−B)の量は1.5%増えるとされている。
この(UV−B)の増加により、皮膚がんや白内障の増加、免疫抑制等の人の健康への影響のほか、動植物の生育阻害等の生態系への影響が懸念される。
例えば、オゾンの量が1%減少すると、皮膚がんの発症は2%増加し、白内障の発症は0.6〜0.8%増加すると報告されている。

オゾン層の破壊は、熱帯域を除き、ほぼ全地球的に進行しており、特に高緯度地域ではオゾンの減少率が高くなっている。

(2)南極上空のオゾンホール
南極上空では、冬から春にかけて南極上空を取りまく極夜渦(きょくやうず)と呼ばれる強い渦状の気流が安定的に生じるため、冬期には極めて低温になり、極域成層圏雲と呼ばれる雲が生じる。
CFC等が分解してできた塩素や臭素は、この雲の粒子表面での反応で活性度の高い状態に変換される。
そして、春(9〜11月)になって日があたるようになると、これらが分解して塩素原子や臭素原子を生成し、オゾンの破壊反応が進行しやすくなり、オゾン層が大きく減少する。
この減少の生じた領域がオゾンホールである。

1985年に英国のファーマンらによって南極上空のオゾンホールについて報告されて以来、毎年9〜11月頃に南極上空でオゾンホールが観測されており、特に1998年には、過去最大規模のオゾンホールが出現している。

(3)オゾン層破壊物質の使用と放出
オゾン層破壊物質は、分子内に塩素または臭素を含む化学的に安定な物質で、いくつかの種類がある。
オゾン層破壊物質の代表とされる「フロン」は、フッ素と炭素からなる化合物の総称であり、具体的にはCFC,HCFC,HFCなどがある。
オゾン層破壊物質として89物質が規制の対象となっている。

【主なオゾン層破壊物質】
名称 オゾン破壊係数 地球温暖化係数 主な用途
CFC
(クロロフルオロカーボン)
0.6〜1.0 4000〜9300 電気冷蔵庫、カーエアコン、業務用冷凍機、ポリウレタン発泡剤、部品の洗浄剤
ハロン 3.0〜10.0 5600 消火剤
四塩化炭素 1.1 1400 一般溶剤、研究開発用
1.1.1-トリクロロエタン 0.1 110 部品の洗浄剤
HCFC
(ハイドロクロロフルオロカーボン)
0.01〜0.552 93〜2000 ルームエアコン、業務用冷凍機、発泡剤
臭化メチル 0.6 土壌の殺菌、殺虫剤
(参考)HFC
(ハイドロフルオロカーボン)
※ HFCは代替フロンの一種でオゾン層破壊物質ではない。
0 140〜11700 電気冷蔵庫、カーエアコン業務用冷凍機、発泡剤

※オゾン破壊係数が大きいほど、オゾン層は破壊される。

こうしたオゾン層破壊物質は、どんなところで使われているか(主なもの)

●家庭
冷蔵庫の冷媒(CFC)、断熱材(CFC,HCFC)、カーエアコンの冷媒(CFC)、
ルームエアコンの冷媒(HCFC)
●商店
食品等の冷凍・冷蔵用の冷媒(CFC,HCFC)
●農地
土壌の殺虫・殺菌(臭化メチル)
●ビル
空調設備の冷媒(CFC,HCFC)、消火設備の消火剤(ハロン)
●工場
部品の洗浄剤(CFC、1.1.1-トリクロロエタン)

(4)現状と今後の見通し
@1999年に南極上空に出現したオゾンホールは、1998年よりも若干小さいものの大規模であった。

Aオゾン全量の長期的傾向については、低緯度を除いた地域で減少傾向にあり、高緯度ほどその傾向が強い。
我が国上空でも、札幌で統計的に有意な減少傾向が確認されている。

B晴天時等の同一条件下では、オゾン全量が減少すれば有害紫外線の地上照射量が増加する関係にあることが確認されているが、我が国では、有害紫外線の地上照射量の明らかな増加傾向は見られない。

C国連環境計画(UNEP)の報告(1998年)では、すべての締約国(約170国)が1997年の改正モントリオール議定書を遵守すれば、





2.オゾン層を守るためのさまざまな取り組み

(1) 国際的取り組み
国際的に協調してオゾン層保護対策を推進するため、「オゾン層の保護のためのウイーン条約」(1985年)および「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年)に基づき、オゾン層破壊物質の生産量等が削減されており、主要なオゾン層破壊物質の生産は、1995年末をもって全廃となった。

また、1995年、国連において毎年9月16日を「国際オゾン層保護デー」とすることが決議された。
これに合わせて各国ではオゾン層保護のためのさまざまな行事を行っている。

【オゾン層破壊物質の生産規制等のスケジュール】
先進国 開発途上国
CFC 1995年末全廃 2009年末全廃
ハロン 1993年末全廃 2009年末全廃
四塩化炭素 1995年末全廃 2009年末全廃
1.1.1- トリクロロエタン 1995年末全廃 2014年末全廃
HCFC 2019年末全廃 2039年末全廃
HBFC 1995年末全廃 1995年末全廃
ブロモクロロメタン 2001年末全廃 2001年末全廃
臭化メチル 2004年末全廃 2014年末全廃

(2)我が国における取り組み
「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(オゾン層保護法)」が昭和63年に制定されている。
(環境庁・通産省の共管法令)

【内容】
・ オゾン層破壊物質の製造・消費数量の規制
・ オゾン層破壊物質の使用事業者に対する排出抑制・使用合理化の努力義務
・ オゾン層の状況やCFC等の大気中濃度の観測・監視など

具体的には以下のような取り組みを行っている。

@ オゾン層破壊物質の回収
CFCなどの主要なオゾン層破壊物質は、1995(平成7)年末までに生産が禁止されているが、過去に生産され、家庭用冷蔵庫、カーエアコン等の機器の中に充填された形で存在しているCFC等の回収・破壊を進めることが課題となっている。

平成10年度におけるフロン回収等への取り組みの現状(環境庁・通産省共同調査結果)
フロン回収実施市町村数 2.620(全体の81%)
協議会設置都道府県等の数(注) 57(全体の97%)
(注)平成11年8月現在:59(全体の100%)

機器の種類 回収率 備考
家庭用冷蔵庫 うち市町村ルート
うち家電販売店等ルート
29% 77%
5%
台数ベースの値
カーエアコン 12% 量ベースの値
業務用冷凍空調機器 56% 量ベースの値
注1) 台数ベースの回収率は、推計廃棄台数に対するCFCを回収した台数の割合
注2) 量ベースの回収率は、推計回収可能CFC量に対する回収したCFC量の割合

A CFC等の回収・破壊の推進
平成9年9月、関係18省庁からなる「オゾン層保護対策推進会議」で、「CFC等の回収・再利用・破壊の促進について」をとりまとめた。

考え方

  • 家庭用冷蔵庫だけでなく、カーエアコン、業務用冷凍空調機器に関しても破壊のための回収をおこなうこととした。
  • このため、カーエアコン、業務用冷凍空調機器、家庭用冷蔵庫のそれぞれについて、関係者が協力して回収・破壊を行うための、関係者の立場に応じた具体的な役割分担を含めた回収のしくみについて考え方を示した。

CFC回収についての各省庁の取り組み

  • メーカー、ユーザー事業者、整備業者等の所管省庁やそれぞれの所管業界団体等に対して、回収に取り組むよう要請をおこなう。
    通商産業省 →(自動車業界等メーカー、販売業者側の)関係事業者
    →中小企業(自動車ユーザー)
    運輸省 →自動車整備業者等の関係業界
    →トラック、バス、タクシー等の関係業界
    →業務用冷凍空調機器としてCFCを使用する関係業界
    建設省 →民間ビルの関係業界
    農林水産省 →食料・飲料品関係の業界

  • 環境庁においては、回収促進のためのモデル事業の実施等により地域におけるフロン回収等推進協議会の活動を支援するとともに、一般国民に対する普及啓発を行う。

破壊処理
冷媒用CFCの破壊処理ガイドラインの充実を図るとともに、ハロン及び断熱材用CFCについても破壊処理技術の確立を図る。

フォローアップ
「オゾン層保護対策推進会議」において、取り組み状況のフォローアップをおこない、必要に応じて、回収等のあり方について見直しをおこなう。

Bフロン回収の仕組みづくり
地域におけるフロン回収推進協議会
  • 地域におけるフロン回収システムの構築と運用、関係者のコンセンサスの形成。
  • 運搬・保管体制整備、回収協力店制度、フロン回収済ステッカー事業等の実施。
  • 協議会設置都道府県・政令指定都市数
    53 57 59
    (平成9年度末) (平成10年度末) (平成11年8月)

カーエアコンの関係業界

  • 平成10年1月から1都3県で収集・運搬・移充填に係わるシステムの運営を開始。
  • システム運営上の問題点等を検証・改善しつつ、平成10年10月から全国展開。

業務用冷凍空調機器の関係業界

  • 全国28地域に「冷媒回収促進センター」を設置。
  • 回収された冷媒の管理・運搬実務を行う「回収冷媒管理センター」(54ヶ所:平成10年度末)を設置。

家庭用冷蔵庫の関係業界

  • 地域のおけるフロン回収等推進協議会の取り組みに参画するとともに、地方公共団体等へフロン回収機を供与・貸与。 家電リサイクル法(平成10年6月5日公布)に基づき、平成13年4月から家電メーカー等が素材のリサイクルと併せて冷蔵庫、ルームエアコンのフロン回収を実施予定。

C平成11年3月に開催されたオゾン層保護対策推進会議で、なお一層CFC等の回収・破壊等の取り組みを具体的に進めることが必要であるという観点から、関係業界の取り組みの促進、主要関係省庁からなる検討会の設置について申し合わせた。

D1999年に北京で開催された「モントリオール議定書第11回締約国会合」において、 先進国は、平成13年7月までにCFCの回収等を含むCFC管理戦略を策定し、事務局に報告することが決定されたことを受けて、我が国においてもCFC管理戦略について検討することとしている。




参考図書

環境庁オゾン層保護検討会編 「オゾン層を守る」 日本放送出版協会 1989年
不破敬一郎編著 「地球環境ハンドブック」 朝倉書店 1994年
松本泰子書 「南極のオゾンホールはいつ消えるのか」 実教出版 1997年
環境庁 「オゾン層等の監視結果に関する年次報告書」 1999年

 
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