講師紹介 石坂 匡身 氏 社団法人海外環境協力センター顧問。元・環境庁事務次官。 |
1.社会的背景
当時の環境問題というものは、即公害問題であり、産業公害、企業公害の問題であった。
したがって、このとき立法された「公害対策基本法」とは、そうした観点から構成されていた。
この「公害対策基本法」では、典型7公害(大気、水、地盤沈下、土壌汚染、騒音、振動、悪臭)を規定し、これに対するさまざまな対応措置が規定された。
その後さまざな形で立法整備され規制措置が講じられた。
また、脱硫装置、発電装置技術などの技術革新もめざましく進んだ。
産業公害を撒き散らすような企業の存立を許さないというように産業公害に対する国民の認識も変わり、企業側の意識も大きく転換した。
こうして「公害対策基本法」が一番問題にしていた産業公害の問題は徐々に沈静化していった。
(現在でも産業公害の問題がなくなったわけではない。)
ところが、1990年前後から、大変重要な環境問題が意識されるようになった。
それは、大きく以下の3つに大別できる。
これらの問題は、一国だけではなく世界的な広がりをもっており、世界中の国が同じ意識でこの問題に対処しなければならない、という観点から大変困難な問題として直面している。
特に、発展途上国にとっては、経済的に豊かになるためには、先進国がたどってきた産業公害の歴史をたどることになる。
これをどうやって克服しなけれなばならないか。
発展途上国は、先進国が犯した産業公害の歴史をたどらずに経済を発展させなければならないのと同時に、先進国が直面している現在の環境問題にも直面している。
20世紀は、物質の豊かさを求めた時代。
21世紀は、こうした20世紀の「つけ」を克服しなければならない時代
である。
このような問題が重要な課題として世界的な認識として共有されたのが、1992年に行われた「地球サミット」である。
「環境基本法」制定にはこのような背景がある。
3.「環境基本法」の骨組み
基本法という名前の法律は、教育、原子力、農業、災害対策、中小企業、林業、消費者保護、観光など全部で12本ほどある。
「環境基本法」は、第一条にあるように、「環境に関する国の政策の基本的な方向を示す」法律である。基本理念や国や地方公共団体の責務、政策の基本となる事項を定めるということ。
個別法とは異なり、そのまま実効をもった措置ができるとは限らないという法律である(プログラム規定)。
したがって、例えば、環境基本法において「〜を講ずるものとする」に基づき、環境影響評価(第20条)であれば、環境影響評価法という個別 法が制定されるのである。
3条〜5条に環境の保全についての基本理念を規定し、6条〜9条に環境の保全に関する責務を規定する等、3章46条からなる法律である。
4.環境基本法策定をめぐる国会審議での論点
「環境基本法」審議の過程で、国会ではさまざまな観点から論議された。
5.環境基本法策定後の展開 【例/環境基本計画】 環境基本計画のキーワード 二つを実現するためにさらに、 「環境基本計画」が策定されてから5年、中環審では内容について見直す作業を行っている。 持続可能な経済社会を実現するために、具体像や望ましいライフスタイル、それにいたる道筋を説得力のあるものとして広く示さなければならないだろう。 6.さいごに 環境問題は今生きている我々の世代だけの問題ではなく、後の世代を含めた世代間の公平を考えなければならない。
「国民が良好な環境を享受する権利」ということであるが、「原則を示したものであって具体的な権利ではない」という考え方や「環境の侵害行為があれば、差止め請求、損害賠償もできる」という考え方があり、決着はついていない。
「環境基本法」では、第3条の中に、環境権の趣旨とするところは位置づけられている。
他のさまざまな計画との関係については、環境基本計画は閣議決定を受けるものであるので、他の計画の中で環境に関するものはこの環境基本計画に沿うものとされる。
個別政策の実施については、必要に応じ個別に計画的に一つ一つ実施していくというこ と。(環境影響評価法、PRTRなど)。国民の意見は、公聴会、手紙、インターネットなどで幅広く受け付けた。
環境税については、まだ国民的議論として十分に合意されているとはいえない。
さらに議論を進め、実現の方向へ進んでいくべきものであろう。
世界的に環境基準が揃ってくれば自ずと解決に向かう問題である。
法令に反しなければ、当然地方公共団体が先行して取り組んでよいもの。
環境省での機能強化に期待したい。
環境基本計画は、環境基本法第15条にもとづいて、平成6年12月に策定された。
「環境基本法」で謳われたことについて、どうやって行政ベースあるいは国民生活の中で実現していくべきかという、法律から実施に移していく際の具体的な方策が盛り込まれている。
日常生活からの参加が重要である。
COP3(京都会議)の開催、環境影響評価法、地球温暖化対策推進法、南極条約、生物多様性の国家戦略、PRTRの立法化など、「環境基本法」で謳われたことが具体化し進展してきた。
しかし、現実は、都市交通公害、湖沼・湾での富栄養化などの環境問題はさらに深刻化している。
また、環境ホルモン、地下水汚染などの発生など、対策が実現されてもそれを上回るスピードであらたな環境問題が進行している。
あらたな環境基本計画の見直し作業のなかで、これらについて具体的な方策を提示できるよう検討している。
子孫の世代まで考えたあらゆる行動が求められているのである。
我々一人一人の日常生活から、地方公共団体、国、世界までを含めた意識を常に持っていなければならない。
また、国際協力についても、簡単ではないがまず先進国がお手本をつくりそれらの技術を途上国に移転するということが重要であろう。
いずれにせよ、一人一人が持っている今までの価値観を、より環境保全型に変えていくという努力が必要不可欠である。
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