2003年度 市民のための環境公開講座
   
パート2:
環境問題最新事情
第1回:
ドイツの環境問題最新事情
講師:
今泉 みね子氏
   
講師紹介
今泉 みね子氏
1948年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。1983年〜86年ドイツのフライブルグ大学に留学。90年よりフライブルグ市に住み、ドイツを中心とするヨーロッパ諸国の環境対策を紹介、雑誌記事の執筆・講演などで活躍。ドイツの小学校の環境教育の実践を描いた『みみずのカーロ』(合同出版)で児童福祉文化賞「厚生大臣賞」を受賞。
主な著書に『ドイツを変えた10人の環境パイオニア』白水社、『フライブルグ環境レポート』中央法規出版、「ここが違う、ドイツの環境政策」(白水社)、『6,000,000,000個の缶飲料』合同出版。訳書に『環境にやさしい幼稚園・学校づくりハンドブック』中央法規出版、『環境マネジメントによるコスト削減』『オオカミ』『オオカミと生きる』白水社、「ソーラー地球経済」岩波書店など。
 
1.処分ゴミが減ったドイツ
 
 ドイツでは1996年に循環経済・廃棄物処理法が施行され、ゴミの回避、リサイクル、環境に適した処分が明記され、生産者責任(ゴミにならないように、長寿命で修理のできる製品、リサイクルしやすい製品の生産)が義務付けられた。この法律やそれ以前に施行された包装材政令(生産者と流通業者に使用済み包装容器の回収とリサイクルを義務付ける)、さらにバッテリー政令、廃車政令などによって、焼却・埋め立て処分されるゴミの量は減った。
 今では基本的にはドイツのどこでも、家庭や事業所から出る一般廃棄物は紙・ボール紙類、プラスチックや缶などの包装材、使い捨てビン、生ゴミ、その他のゴミ(紙おむつなどリサイクルできないゴミ)に分けられ、その他のゴミ以外はすべてリサイクルに送られ、その他のゴミだけが焼却または埋め立てまたは機械生物分解処理される(2005年からは焼却または機械生物分解の処理を受けたあとの残滓だけが埋め立てを許される)。
 一般廃棄物全体のリサイクル率は96年には35%だったが、2000年には49%になった。ゴミの総量はこの間、ほぼ一定しているので、処分される廃棄物の量が半減したことになる。
 
  • 生ゴミのリサイクル(コンポスト化)率は70%
  • 包装材のリサイクル率は、使い捨てガラスビン82%、紙・ボール紙類77%、アルミ76%、スチール缶80%、プラスチック・複合素材58%
  • 印刷された紙のリサイクル率84%、乾電池のリサイクル率66%
 
  リサイクルよりも重視されるゴミの回避
  • 容器の簡素化、マイバックの持参(昔から当たり前。食料品では袋は大抵、有料)
  • 多くの自治体では公共の催しでの使い捨て容器は禁止
  • リユース容器の促進→缶飲料、使い捨てペットボトル飲料のデポジット制導入
    →店頭から缶飲料を一掃したスーパー
  • 集合住宅での資源ゴミ分別の徹底→ゴミマネジメントという新しい業種
 
 
2.原発廃止を決めたドイツで温室効果ガス削減が達成できた理由
 
 (90年比で2000年では18.9%削減した。京都議定書の目標は21%、日本は京都議定書の目標は削減6%だが、現在までのところ、逆に11%増えている)
  • 省エネ政令による規制、建物の省エネ対策に対する補助金などの省エネ政策。これによって新たな雇用も生まれ、エネルギーコンサルタントやエネルギーコントラクティングなどのエネルギー関係の新しいビジネスも生まれた。
  • コジェネレーションの促進や優遇措置。発電に使われるエネルギー源の半分以上は石炭や褐炭だが、石炭発電もコジェネレーションにかえられたことによって、エネルギー効率が倍以上に高まり、石炭発電による高いCO2排出が相殺されている。現在は天然ガスコージェネレーションへの転換も進んでいる。
  • エコロジー税の導入
  • 再生可能エネルギー利用の促進。2000年に施行された再生可能エネルギー法は、再生可能エネルギー(自然エネルギー)電力の買い取り義務と買取最低価格を定めている。この法律のおかげで農民による自主的な風力発電、風力発電ファンド、市民共同太陽光発電装置づくりなどが経済的にもペイするようになり、民間の再生可能エネルギー利用が活発になった。現在は、風力発電は世界一(出力1200メガワット、世界の3分の1)になり、風力発電に関係する雇用は35,000人分ある。再生可能エネルギーによる発電全体での雇用は130,000人。
    消費電力の内、再生可能エネルギー電力が占める割合は2002年では8%、第一次エネルギー全体の消費で占める割合は2.9%。目標は2010年までにそれぞれ12.5%、4.2%。
    再生可能エネルギー利用によって削減されたCO2排出は5100万トン。
  • 風力ファンド、ソーラーファンドのブーム
  • 学校の省エネ活動(エネルギーマネジメント、節約された光熱・水道費を自治体が学校に返す制度)
  • 自然エネルギー電力を提供する市民電力供給会社
  • パッシブハウスなどエコ住宅のブーム
  • CO2ゼロエミッションを目指す2006年のサッカーワールドカップ
 
 
3.車から公共交通機関への乗り換えを促す交通対策
 
 交通によるCO2排出は全体の約4分の1をなす。CO2削減のためにも、資源節約のためにも自動車交通をなるべく減らし、公共交通機関や自転者に切り替えるのが望ましい。
 
  • 町の中心地での自動車乗り入れ禁止
  • 路面電車の拡張
  • 格安な料金システム(例、フライブルクのレギオカルテ、スイスのジョブチケット)
  • カーシェアリング(自動車の共有組織)、公用車をカーシェアリングに代える自治体
  • 車のない住宅地
  • 自転車専用道路、駐輪場の強化
  • 問題点(トラック輸送の増大、市民の行動を変えることの困難)
 
 
4.自然保護
 
  • エコロジカルな洪水防止計画
  • ビオトープ保護
  • 市民運動から生まれた、東西ドイツ境界沿いの「緑の帯」の保護
  • 並木路の保護運動
  • エコロジカルなツーリズム・・・観光地、ホテル、キャンプ場についての全国統一商標づくり、自転車ツーリズムの促進
  • 土地開発の制限(現在は一日当たり130ヘクタールが開発されている。これを30ヘクタールに下げるのがドイツの「持続可能性戦略」の目標。この目標達成のためには、すでに開発されている土地や建物の再利用、土地の有効な使い方が必要)
 
 
5.環境教育
 
  • 森の幼稚園
  • 実践に結び付ける学校の環境教育、環境団体や企業など外部の組織や専門家との協力でおこなわれる環境教育・・・ゴミの出ない買い物、ゴミの出ない朝食、省エネ実践など。
 
 
6.環境対策における市民、市民団体の意義
 
 ドイツの環境対策は国や自治体が最初からすぐれていたから実現できたわけではない。70年代から原発や焼却場の反対運動や森を守る運動などの市民運動がおこり、多くの大きな環境団体が成立して、国や自治体を批判し、提言していたことがきっかけでできた対策や制度が多い。大切なのは市民が声をあげ、自らも生活の中で実践することである。
 現在、環境運動は静まったとはいえ、環境団体は地域で自治体や学校と協力しながら、太陽光発電や風力発電、省エネ、ゴミ減らし、自動車交通減らしなどの活動を続けている。
 
 
7.それでも残る大きな問題
 
 増え続ける自動車交通、時速制限のない高速道路、風力発電への風当たりの強さ、缶デポジットへの抵抗、市民の環境離れ。
 化石資源利用を続ける限り、戦争も環境破壊も続く。エネルギー転換をしない限り、環境問題は根本的には解決しない。