2005年度 市民のための環境公開講座
   
パート3:
日本の食の現状  
第4回:
ピースアースフード宣言 ココロとカラダとセカイを平和に導く雑穀食生活
講師:
大谷 ゆみこ氏
   
講師紹介
大谷 ゆみこ氏
食デザイナー・いるふぁ代表。
暮らしの探検家・食デザイナーとして活躍中。日本の伝統食である雑穀に「つぶつぶ」という愛称をつけ、数千点に及ぶ「つぶつぶベジタリアン」レシピを創作、体と地球の元気を同時に取り戻す「未来食」として提唱している。「私が変わる・暮らしが変わる・地球が変わる」というメッセージとともに、持続可能な暮らしへの転換をめざす非営利の市民団体(NPO)「いるふぁ(ILFA/International Life & Food Association)」の代表として、食と暮らしをテーマに様々なアプローチで実践研究を重ね、「いのちと食べ物のホントの関係」と「地球と体の生命力を高めるおいしい食術」を伝える活動に取り組んでいる。
 
 
1.ピース・アース・フード宣言
 
 雑穀は歴史が始まって以来、日本人の、世界の人々の基幹作物として大勢の命を養ってきた存在なのに、昨今では忘れ去られています。私は23年前に雑穀と出会い、そのおいしさに魅せられました。本当のおいしさ、本当の食べ物を知って、たくさんの幸せをいただいてきました。その幸せを多くの人に分けたいと思い、「いるふぁ(インターナショナル・ライフ&フード・アソシエイション)」を11年前に立ち上げて活動をしています。私は雑穀を含めた穀物が主役の食事を「ピース・アース・フード」と呼んで皆さんに提案しています。
 
 「ピース・アース・フード宣言(平和のために穀物を食べよう)」
人の体の仕組みに合わない食べ物と食習慣によって世界中の命が悲鳴を上げています。
日本人の体質に合わない食べ物と食習慣に、日本中の体が悲鳴を上げています。
自然界のシステムに合わない食べ物の生産や移動によって、生態系が壊れ始めています。
体を虐待する食から命を守る平和な食へ。
体の中の環境破壊。命を攻撃する戦争は皆さんが自分自身の手で、今すぐ止めることができます。
命と食べ物の本当の関係を学び、日々の食生活を変えて、一番身近な自然環境である体の中から、平和を取り戻しましょう。
平和な体が平和な心を育みます。平和な心が未来に平和を実現します。
 
 
2.イネと主食
 
 みなさんは食事をする時に飯(めし)あるいはご飯という言葉をよく使うと思いますが、ご飯の意味が二つあることを知っていますか。一つは炊いた穀物をご飯といいます。もう一つは食事のことをご飯といいます。これだけで、日本人は、穀物を主食として食べる民族として生きてきたのだなということが判ります。それが戦後、ご飯は少なく、おかずをたくさん食べ、肉をたくさん食べるようになり、主食だった穀物が脇に追いやられました。
 私たちは主食を主食として食べる、穀物をできたら食事の8割にすることを提案しています。言霊(ことだま)といって、日本人は言葉の一つ一つに意味を、エネルギーを感じてきました。稲は古代の言葉では、「イ」は「息」「勢い」のように、自然界のエネルギーや命を表しています。「ネ」は根っこで根源という意味です。イネは命の根源という意味なのです。そして、イネと呼ばれているものは、私たちが食べている米だけではなくて、日本人が戦後、地域によっては昭和40年代まで毎日の主食として食べていた米以外の伝統の食物たち、ヒエ・アワ・キビも含めて穀物が畑で実る姿をイネ、命の根源と呼んで育てていたのです。
 私は世界の先住民の食文化を見て歩いたのですが、どこに行っても基本は穀物と塩と野菜の食事でした。日本の歴史を紐解くと、雑穀と味噌。そして土地の旬の野菜が私達の主食でした。
 
 ピース・アース・フード宣言10の提言
 いるふぁが提案しているのは、@穀物を主食に食べる、A調味料は海の塩、B植物性の食べ物を主に食べる、C季節の野菜を食べる、D伝統の発酵食品を毎食食べる、E国産のもの、地域のものを食べる、F加工しすぎない食べ物を丸ごと食べる、G冷蔵・冷凍が必要ない食べ物を食べる、Hなるべく自分で料理する暮らし、Iプランターでいいから土を耕す暮らしの10項目を満たす食です。私はこの穀物を食べる暮らしを「つぶつぶベジタリアン」と呼んでいます。
 
 現代の食事は、肉があることを前提にしている食事です。命と食べ物の本当の関係を学ばずに肉だけを減らしてしまうと、これも危険なのです。もし肉をやめるのであれば、本来の食生活の体系を学び直さないと駄目なのです。塩を減らすことが本当の健康のように言われていますが、減塩というモノが私たちの今の病気、ボケの原因になっています。
 「日本の風土に合う健康な食文化を守り育て、地球生態系と人間の体のメカニズムに合う食文化を創造する」これが「いるふぁ」のミッションです。毎日毎日知らずに食べることで、自分自身を生理的に虐待してしまうような現代の食事から、食べることで細胞が小躍りするような、命を創造する食への転換を大きな視野で取り組んでいただきたいなと思っています。
 
 
3.私の実践
 
 今から23年前、穀物と雑穀(特に玄米)、旬の野菜、海藻、海水から取れた塩、それから作った味噌・醤油・漬物。これしか食べないで、人はどれだけ健康になれるかという、楽しいゲームを始めました。もともと私は珍しいもの、新しいもの好きで、こってりしたものやチョコレートが大好きなので、絶対にできないと思っていました。でも、やってみたらそのおいしさに気づき、心と体が晴れたんですね。舌がおいしいのではなくて、DNAがおいしいんだという、本当の満足感を味わうことができました。世の中にあるどのご馳走よりもこの方がよっぽどおいしくて、体を温めて心も豊かにしてくれて、楽しく探求してあまりにおいしいので、少しでも多くに人に知らせたいと思って活動しています。そういうことに気づいてから、今から15年前に山形県の豪雪地帯に引越しました。でも、私が住んでいるそんな田舎でもちょっと町に行くと、アトピーの子どもがいて、癌の人がいて、40歳から自閉症になる大人、今までにはありえなかったことが、次々起こっていて、人間の生理に合わない食事が原因だと実感できました。23年間、私と家族は薬を飲んでいないし、医者にかかっていません。
 穀物は人間にとって、母なる地球のおっぱいなのではないか、それもとてもエネルギーの高いおっぱい。穀物で多くの幸せ感と、健康的な問題、精神的な問題、地球の環境が治っていくような、そういう方法があるのです。これを知って欲しいということで活動しています。その活動は「いるふぁ」の活動で、私のメッセージとリンクしています。
 
 
4.伝えたい!いのちを輝かせるおいしさ
 
 平和のために穀物を食べよう。「いるふぁ」は雑穀をガイドに食からピースアースな未来を考える市民ネットワークです。「いるふぁ」のミッションは、本当の食べ物、本当の料理、本当のおいしさを一人でも多くの人に伝えることです。一番大きなメッセージは、体は一番身近な自然環境だということです。自分の体のこと、体を養う食べ物のこと、食べ物を満たす大地のこと、本気で見つめてみませんか。内なる自然環境に平和を取り戻す「つぶつぶベジタリアン」のいのちを輝かせるおいしさを味わってみませんか!日本には多様な穀物があります。歴史を紐解いていくと、北海道のアイヌの人たちが白米を食べるようになったのは昭和30年代になってからです。全国の山間地では昭和40年代後半まで雑穀しか食べない人たちがたくさんいました。
 私は生まれてから30歳になるまで雑穀を見たことも食べたこともなかったので、まずくて栄養価値がなくて大昔の食べ物という、ネガティブなイメージを持っていました。雑穀に本気で向き合うことで、ネガティブな先入観から自由になれました。私は食いしんぼうで世界中を食べ歩くような暮らしをしていましたが、それでも何か満足しなかったんですね。それが雑穀と出会ったとき、「もう他のものはいらない」と思えるくらいおいしかったのです。
 食べることの新発見でした。心が潤うおいしさ(ピースハートなおいしさ)。細胞に響くおいしさ(ピースボディなおいしさ)。地球が喜ぶおいしさ(ピースアースなおいしさ)です。世界各地の伝統穀物は今、人類が直面している深刻な問題、健康・環境・食料の3つの危機を解決する重要な作物で、各国がその研究を始めています。
 いるふぁの前身の食の実践研究所「未来アトリエ風(ふう)」は、1982年から活動をしています。体と地球に平和をもたらすおかず・お菓子食材のニューフェースとして雑穀に注目し、今までに数千の穀物と野菜の創作料理、それも世界中の人がおいしいと賞賛してくれるレシピを開発しました。伝統的な食材で最先端の創造的な料理を楽しむという、かしこくてかっこいい料理を「つぶつぶクッキング」として、その輪をどんどん広げています。今までに20冊以上の本を出版しました。
 
 
5.おいしいつぶつぶ達
 
 高キビはコーリャンと呼ばれ、アフリカ起源の食べ物です。日本では粉にして団子にして食べていました。これを粒のまま炊いてみると、ひき肉そっくりです。もちアワは上手に炊くとメルティングチーズみたいになります。もちアワを硬めに炊いてレーズンと粉を混ぜて揚げると、全くお砂糖を入れないのにアワの甘さとドライフルーツの甘さが一体となって、自然食を全く知らない子どもでもおいしく食べてくれるドーナツができます。もちキビは炊くといり卵のようになります。ヒエは冷え性が治るくらい体を温める力が強いので、東北では欠かせない主食作物でした。東北では、人間はヒエの実を食べて(奥州平泉三代の主食はヒエ)馬はヒエの殻と藁を食べて冬の寒さに適応してきました。東北では、ヒエ畑の大きさで飼える馬の頭数が決まったといいます。唯一、日本発祥の穀物と言われています。これはすごくコクがあります。炊くとマッシュポテトのようにふわふわになりますが、冷めるとポロポロになります。炊いた直後にとろろいもと混ぜてみたら、いつまでもやわらかく、お魚のすり身風になりました。これを使うとお魚料理は何でも作れます。ギョウザの中にいれるとチキンのような味がします。また、ヒエは粉にするとミルクパウダーのようになるので、ヒエの粉にジュースを4倍入れて鍋に入れて煮ながら混ぜているとカスタードクリームになります。65度で固まるので冷蔵庫いらずのババロアやブラマンジェができます。お砂糖やミルクが入っていないのに、甘くて穀物のエネルギーを感じるお菓子です。
 雑穀を食べる一番簡単な方法は、ご飯に2割混ぜ込んで、雑穀のことは考えずに水加減をして炊くといいんですね。その時、3合に対して少しお塩を入れておくと、つやつやのおいしいご飯になって、白米の足りない栄養が補われてご飯が玄米以上の栄養になります。もう一つの活用法は、雑穀の粉を二割混ぜ、パンを作るときや天ぷらを揚げるときに使います。ちょっとアースカラーな、香ばしくておいしい、細胞再生力が高くなっていく食事になります。次はスープです。野菜500グラムに対して穀物を1/2カップ程入れて、水をたっぷり入れて煮ると、本当においしいスープになります。こうすることで雑穀が持つ抗酸化成分や食物繊維が補えます。
 脳を活性化する力も強いのです。繊維が凄く多いので適正な刺激を脳に与えてくれて神経を整えますし、体に毒を留めないので脳が活性されていきます。それから、最近感じているのは、体の波動を整えて地球・自然・宇宙の波動と自分の波動を調和した波動にしてくれる力が雑穀にはあります。また、少しの肥料と水で育ち、山間地で育ち、強い生命力と発芽力があります。ヒエやアワは150年でも発芽力が残ります。私が住んでいるところは庄内地方で比較的早くから雑穀から米に変わってきた地域ですが、何かあったら食べ、蒔くために天井裏に雑穀を保存していました。
 
 
6.私たちの活動
 
 雑穀は丈夫な体を作り、贅肉のないしなやかでタフな体を作ります。特に内臓脂肪を絞り出してくれます。野生のエネルギーが雑穀にはあります。
 15年前に雑穀を知ったおかげで、1年間に60キロの穀物と塩と野の草があれば人は生きていけることを知ったので、人が生きる本当の道を知りたいと思って、ライトバン一台に荷物を積んで山形の山の中に引っ越して、子供4人を育て、畑を耕し、家を手作りしながら暮らしてきました。今ではワークショップで40人が暮らせるような大きな家ができました。ここを「ライフ・スタディ・センター」と呼んで、年に5回ほどオープンハウスという滞在型の、暮らしと食のセミナーを開いています。雑穀農場もあります。
 研修生を受け入れる「ワーキング・スティ」制度もあります。その他に、年に3回「つぶつぶ」という本の発行や、自分の生命力を更に高めて、環境汚染の害をなるべく受けずに生き生きしながら未来を作る力が沸き立つような食べ方(サバイバル)を伝える「サバイバルセミナー」を運営しています。
 また、雑穀の種と栽培方法を配付してプランターで雑穀の種を育ててもらい、雑穀の意味を伝える「ライフシードキャンペーン」を展開しています。ライフシードとは、私たちの命を養う作物の種と、食文化という大きな意味での命という意味があります。作物の種子とその多様性を守りつなぎ、日本の風土に合う健康な食文化を守り育て、地球生態系と人間の体のメカニズムに合う食文化を創造しようよということを呼びかけています。
 2005年からは「つぶつぶトラスト」が始まっています。輸入品は安いので、このままでは日本の雑穀が消滅してしまう可能性があります。種を蒔く前に予約して翌年1月から毎月、穀物が定期的に届くというトラストです。
 今後の活動として、3つ考えています。一つ目は「つぶつぶカフェを世界の街角へプロジェクト」です。ファーストフードを選ぶより、つぶつぶカフェを選んでくれる人を増やしたいなと思い、各地に展開できるビジネスモデルを構築中です。二つ目は「ピース・フード・ケータリング」です。たくさんの人に体が喜ぶおいしさを体験してもらう仕事で、中身は伝統、見た目は最先端の無国籍料理を提案します。三つ目は「食学」です。食べ物、料理、体の関係を自然科学の視点で生態学的、生理的に見つめなおして「ピース・ボディ」、「ピース・ハート」、「ピース・アース」な食のビジョンを育てることです。
 さらに食べ物の中の総合的な栄養の働き、季節と風土と体と食べ物の関係、体の中での食べ物の総合的な働き、食に関わる体のメカニズム、おいしさと健康、健康をもたらす味覚、料理が食べ物・体に及ぼす影響、具体的な料理法、現代の暮らしにはまるレシピ、こういうものが総合的に開発される必要があると思います。
 自分の体は一番身近な自然環境です。体の環境問題を解決できなかったら、地球の環境問題の解決はできません。体の中の環境問題はすぐに変えることができます。今日をきっかけに、みなさんがこの60年間に日本で何が起きたかを冷静に見て、未来のために何をどう食べて、どう生きるかということを考え始めてくれたら、うれしく思います。